一般のロシア国民に「戦争の責任」はあるのかーーEUによるビザ発給制限の背景と余波

執筆者:鶴岡路人 2022年11月7日
エリア: ヨーロッパ
2022年9月22日、ロシア-フィンランド間の国境検問所に列をなすロシアからの車[ヴァーリマー、フィンランド](C)AFP=時事
米欧日を中心とする国際社会は、“悪いのは一般のロシア国民ではない”という含意で「プーチンの戦争」と呼び、その前提で対露制裁を実施してきた。だが、ロシア人の入国者急増がEU諸国の安全保障リスクとなり、加えて動員逃れのロシア人の受け入れ問題も浮上する中、特に対露制裁を科している諸国にとって「一般のロシア国民の責任」は向き合うことを避けられない課題になりつつある。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、「プーチンの戦争」と呼ばれることが多い。侵攻を決定したのがウラジーミル・プーチン大統領であることは明確だ。その背後には、もし大統領がプーチンでなければ、このような形での侵攻はおこなわれなかったはずだという理解も存在する。いずれにしても、悪いのは大統領、そしてそうした大統領の下のロシア政府であって一般のロシア国民ではないというのである。こうした言説は、戦争においてはよく使われる。「あなた方市民は敵ではない」として、人心の掌握を目指すのである。一般国民は被害者だ、という考え方にもつながる。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部准教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)など。
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