
ウォルドルフ(左)とナンシー(右)の2代アスター子爵夫妻。カズオ・イシグロ『日の名残り』のモデルとされる
アメリカの大富豪に生まれて
「ウィンストン! もしあなたが私の夫だったら、あなたのコーヒーに毒を入れてやるわ!」
「ナンシー! もし私があなたの夫だったら、迷わずそれを飲むね!」――
このすさまじい会話は、さる貴族の豪邸の朝食の席で繰り広げられたものとされている。しかし実際にはこれはよくできた「作り話」とも言われる。会話の主は、のちのイギリスの大宰相ウィンストン・チャーチルと、この館の女主であるナンシー・アスター。かの言葉の達人チャーチルを向こうに回し、これだけの会話を交わせるような「女傑」を生み出した「アスター子爵(Viscount Astor)」家とは、いったいどのような貴族だったのだろうか。

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