教養としてのイギリス貴族入門 (6)

アスター子爵家

執筆者:君塚直隆 2023年2月11日
タグ: イギリス
エリア: ヨーロッパ
ウォルドルフ(左)とナンシー(右)の2代アスター子爵夫妻。カズオ・イシグロ『日の名残り』のモデルとされる
アメリカ文化を厭ってイギリスに渡り受爵した大富豪は、ある意味ではイギリス人以上に、政治や公共福祉分野で貴族としての責務を果たした。カズオ・イシグロが『日の名残り』で描いた「ダーリントン伯爵」モデルのひとつ、アスター子爵家の来歴。【新潮選書『貴族とは何か』刊行記念スピンオフ企画第6回】

アメリカの大富豪に生まれて

「ウィンストン! もしあなたが私の夫だったら、あなたのコーヒーに毒を入れてやるわ!」

「ナンシー! もし私があなたの夫だったら、迷わずそれを飲むね!」――

 このすさまじい会話は、さる貴族の豪邸の朝食の席で繰り広げられたものとされている。しかし実際にはこれはよくできた「作り話」とも言われる。会話の主は、のちのイギリスの大宰相ウィンストン・チャーチルと、この館の女主(ホステス)であるナンシー・アスター。かの言葉の達人チャーチルを向こうに回し、これだけの会話を交わせるような「女傑」を生み出した「アスター子爵(Viscount Astor)」家とは、いったいどのような貴族だったのだろうか。

カテゴリ: カルチャー 社会 政治
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執筆者プロフィール
君塚直隆(きみづかなおたか) 関東学院大学国際文化学部教授。1967年東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒業。英国オックスフォード大学セント・アントニーズ・コレッジ留学。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程修了。博士(史学)。東京大学客員助教授、神奈川県立外語短期大学教授などを経て、関東学院大学国際文化学部教授。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。著書に『立憲君主制の現在』(新潮選書/2018年サントリー学芸賞受賞)、『ヴィクトリア女王』(中公新書)、『エリザベス女王』(中公新書)、『物語 イギリスの歴史』(中公新書)、『ヨーロッパ近代史』(ちくま新書)、『悪党たちの大英帝国』(新潮選書)、『王室外交物語』(光文社新書)他多数。
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