
豊田喜一郎(1894〜1952年)が父・佐吉の経営する自動織機工場の敷地の一角で、トヨタ自動車の前身である「自動車部」を立ち上げてから、今年9月で90年。その節目の年が明けて間もない1月26日、トヨタ自動車は社長の豊田章男(66)が4月1日付で会長に退き、執行役員の佐藤恒治(53)が社長に昇格するトップ人事を発表した。
喜一郎から数えて3代目に当たる章男は2009年6月の社長就任以来、社内外での存在感は歴代トップの中でも群を抜いた。トヨタの顔としてテレビCMに出演したのをはじめ、「クルマづくり」の陣頭指揮に立ち、年間1兆円台後半から3兆円に近い純利益をコンスタントに稼ぎ出した。社長就任直前(2009年3月末)に10.7兆円だった株式時価総額は現在30.6兆円(2023年2月10日終値)と3倍に膨らんだ。
「黄金期」と呼ぶに値する実績だが、とはいえ経済界やマスコミから“カリスマ”の称号を奉られるほどの評価は得ていない。2年後の「財界総理」(経団連会長)就任が取り沙汰されているものの、政官財有力者の一部では資金力に期待する「トヨタ人気」はあっても「アキオ待望論」は聞こえてこない。なぜなのか。結論を先に言えば「強さ」は認めるが「尊敬」に値しない――。これに尽きる。
「トヨタを国ぐるみで支える」
今から10年ほど前。東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所(イチエフ)事故で経済・社会が大打撃を被った後遺症がまだ癒えぬ頃、経済産業省の若手官僚の講演を聴く機会があった。
「トヨタを国ぐるみで支えることで100万人の国内雇用を維持できる」

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