【Analysis】自動車メーカーが急ぐ「EV用黒鉛」の「脱中国」

2023年7月9日
タグ: EV 脱炭素 中国
エリア: アジア アフリカ
2024年の商業生産開始を目指すタルガ・グループ所有のニスカ試験黒鉛鉱山[2022年8月、スウェーデン北部ノルボッテン](C)Reuters
電気自動車(EV)用バッテリーの原材料であるリチウムやコバルトの争奪戦がかねて激化しているが、盲点となっていたのが黒鉛だ。今後のEV需要を満たすには、2030年までに約120億ドルの投資と、2035年までに97の新規鉱山が必要になる。しかも天然黒鉛の生産ベースで61%、バッテリーの負極を作る最終加工材料ベースでは98%を中国に依存しており、EVメーカーは「黒鉛の調達」と「脱中国」という2つの課題に直面している。

 

[ロンドン発(ロイター)] 電気自動車(EV)の販売台数の急増により、黒鉛のEVバッテリー用需要が初めて他の用途向けを上回った。テスラやメルセデスといった自動車メーカーにとって急務となっているのが、黒鉛の主要生産国である中国以外からの調達だ。

 自動車メーカーはこれまで、EVバッテリーの原材料としてリチウムやコバルトの確保に力を入れる一方で、原材料の中で最大の重量を占める黒鉛については対策が後手に回ってきた。

 コンサルタント会社プロジェクト・ブルーによれば、天然黒鉛市場では今年初めてEV向けの需要が50%を上回ると予測されており、自動車メーカーはマダガスカルやモザンビークといった新たな生産地を開拓している。アメリカやヨーロッパでは、重要鉱物の中国依存を減らすことを目的とした法律が制定されているため、中国以外で生産される原料の不足が今後さらに深刻化しそうだ。

「西側の黒鉛事業に投資が行われてこなかったため、自動車メーカーは窮地に立たされている」と、スウェーデンで来年生産を開始するオーストラリアの素材メーカー「タルガ・グループ」の創業者兼社長であるマーク・トンプソン氏は言う。

今年4月に黒鉛生産の試運転を開始したネクストソース・マテリアルズ所有のモロ鉱山[2023年4月、マダガスカル南部フォタドレボ](C)Reuters

 EV1台当たり平均50~100キロの黒鉛がバッテリーの負極に必要で、これはリチウムの約2倍の必要量だ。現在、黒鉛の主な用途は鉄鋼業向けだが、BMOキャピタル・マーケッツの予測ではEVの販売台数は2030年までに2022年の3倍以上の3500万台に増加する。先のプロジェクト・ブルーによれば、黒鉛の不足は今後数年間で拡大し、2030年までに77万7000トンの世界的な供給不足が発生する見通しだ。

 ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス(BMI)は、黒鉛の需要を満たすには、2030年までに約120億ドルの投資が必要であり、2035年までに97の新規鉱山が必要であるとの分析を報告書で示した。またBMIによれば、中国は世界の天然黒鉛の生産ベースで61%、バッテリーの負極を作る最終加工材料ベースでは実に98%を占めている。

タルガ・グループ所有の工場で黒鉛をEV用バッテリーの負極材に加工する作業員たち[2022年4月、スウェーデン北部ルレア](C)Reuters

黒鉛加工工場の建設

「タルガ・グループ」のトンプソン氏はロイターに対し、「タルガ・グループはテスラ、トヨタ、フォードなどの自動車メーカーや、スウェーデンのノースボルトなどのバッテリーメーカーへの供給を目指している」と説明した。テスラ、ノースボルトはロイターの取材依頼に対し、返答しなかった。トヨタとフォードは、回答を拒否した。……

カテゴリ: 経済・ビジネス
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top