李克強を悼み、1980年代の夢を悼む中国社会――「悲劇の総理」と「皇帝・習近平」の相克(上)

執筆者:城山英巳 2023年11月16日
タグ: 中国 習近平
エリア: アジア
李克強の急死を受け、北京大学時代の元同級生や同窓生が次々と追悼の文章を発信した[全人代第4回全体会議で、李克強前首相(右)と握手する習近平国家主席(左)=2023年3月11日、中国・北京の人民大会堂](C)AFP=時事
李克強は「道を歩いている時も、食堂で列に並んでいる時も、外でバスに乗っている時も英語を暗記していた」と学友は伝える。第一次天安門事件から「北京の春」へと続く1970年代後半。李が北京大学でロックの自由主義や西洋の法制に夢中だった時期に3年先立ち、下放を耐えた習近平は「工農兵大学生」として推薦され清華大学に学んでいた。対照的な2人の青年期は、対照的な「文革~改革開放」の時代認識を形成した。2人の相克の根幹を李のパーソナルヒストリーから照らし出す。

 中国の李克強前総理(68)が10月27日、心臓発作で急死した。休養先の上海での水泳中の出来事とされる。その直後から、李が高校生まで過ごした故郷・安徽省合肥市の旧居前や、省長を務めた河南省鄭州市の広場などで追悼のための市民の列は途切れることはなく、周辺は花の海になった。詰まるところ、圧政を続ける習近平共産党総書記(国家主席)に対する市民の不満と抗議の裏返しでもある。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
城山英巳(しろやまひでみ) 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。1969年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社に入社。中国総局(北京)特派員として中国での現地取材は十年に及ぶ。2020年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(社会科学)。2010年に『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書)でアジア・太平洋賞特別賞、2014年に中国外交文書を使った戦後日中関係に関する調査報道のスクープでボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書に『中国臓器市場』(新潮社)、『中国 消し去られた記録』(白水社)、『マオとミカド』(同)、『天安門ファイル-極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」』(中央公論新社)、『日中百年戦争』(文春新書)などがある。
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