台湾「頼清徳」新政権を左右する「第三勢力」柯文哲の強みと弱み

執筆者:宮城英二 2024年1月23日
タグ: 台湾
エリア: アジア
投票前夜に台北市の総統府前で開いた集会で演説する柯文哲氏=1月12日夜(台湾民衆党のフェイスブック公式アカウントより)
台湾総統選で第3位とはいえ25%を超える得票率を記録した台湾民衆党・柯文哲主席(64)。立法院では与党・民進党が過半数割れした一方、民衆党は8議席を獲得しキャスティングボートを握った。40歳未満の若年層は4割超が柯氏を支持したほか、高学歴・高所得者層からも票を集め、第三勢力としての立ち位置を固めた。ただし、政策にこれといった特色がなく、実態は柯氏の「個人政党」に過ぎないとの見方もある。

 与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳氏(64)が三つ巴の選挙戦を制した台湾総統選の結果は概ね下馬評通りだったと言えるが、3位となった台湾民衆党の柯文哲氏が予想よりも存在感を示したことは注目に値する。早くも2028年の次期総統選を窺う柯氏の今後を占う。

 医師出身で台北市長を2期務めた後、総統選に初挑戦した柯氏は369万票を集め、民進党・国民党以外の第三勢力としては、2000年の総統選で466万票を獲得した宋楚瑜氏(無所属)以来、初めて25%を超える得票率を記録した。大勢判明後、柯氏が支持者に対し、「得票は予想には届かなかったが、負けてはいない」と発言したのは本音だろう。当然民衆党主席を引責辞任することもなかった。

キャスティングボートを握った民衆党

 全体の得票率で見ると、頼清徳氏が40.05%、侯友宜氏(66、中国国民党)が33.49%、柯文哲氏が26.46%。筆者は選挙戦終盤で野党支持票のうち、柯氏を支持する票の一部が侯氏に流れることもあり得ると考えていた。台湾の選挙では伝統的に支持候補の当選が望めない場合、最も当選させたくない候補を落選させるため、比較的主義主張が近い候補に投票を集中する「棄保」効果と呼ばれる現象が現れることがあったが、今回は柯氏の支持層は思ったほど揺るがなかった。

 民衆党関係者は中国時報の取材に対し、「柯氏は旧勢力と新しい政治の選択だと言ってきた。過去には(民進党と国民党以外に)より良い選択がなかったが、第三の選択肢が現れ、柯氏が最善の選択となったことから、『棄保』の対象にはなりにくかった」と分析した。

 有権者は物価高、住宅難など民生面で有効な政策を打てない民進党政権に不満を募らせていた。台北滞在中に会った知人は「とにかく民進党を引きずり下ろしたい。かといって国民党も嫌いだから、柯氏を支持する」と話した。実際そういう有権者が多かったのではないか。

 地域別では、ハイテク企業が集中し、高学歴・高所得層が多い新竹県で柯氏がトップに立ったほか、出身地の新竹市では頼氏にわずか1300票差での2位。桃園、台中の両市でも得票率が30%を超え善戦を見せた。ただ、台北市では柯氏が市長時代に敬老給付金をカットするなどしたことに反発があったためか、得票率は23.79%とやや伸び悩んだ。   

 一方、柯氏が2019年に旗揚げし、自ら党主席を務める台湾民衆党は、総統選と同時に実施された立法委員選では、小選挙区こそ議席獲得を逃したものの比例区は改選前より3議席増の8議席を確保した。

 今回の立法委員選の結果、国会に相当する立法院では与党民進党が過半数を失った。民進党が政権を維持したものの、立法院を掌握できないねじれの状態が生じたことは、同党に対する有権者の不満の表れと言える。その受け皿となったのが、国民党(52議席)と民進党(51議席)だが、互いに拮抗していずれも過半数に届かず、民衆党が議会運営でキャスティングボートを握る重要な存在として浮上した。

 今後は立法院での連立工作が政局のカギとなるが、民衆党は今回の総統選で侯友宜氏との候補一本化(いわゆる藍白合)に失敗しており、国民党との野党連携は可能性が低いとみられている。与党民進党は安定した政局運営を図るため、民衆党に重要な閣僚ポストを提示するなどして連立を模索する可能性があるが、その場合民衆党が勝ち馬に乗るかどうか注目される。

若年層と高学歴・高所得層で支持拡大

台北郊外の新北市新荘区に設けられた柯文哲氏の選対本部(筆者撮影)

 民衆党は新興勢力だけに組織力や資金力では二大政党に大きく劣る。しかし、フェイスブック、インスタグラム、ユーチューブなどSNSを駆使した広報戦略に長けている。柯氏自身が歯に衣着せぬ物言いで有権者に直接訴えかけ、斬新なイメージで劣勢を跳ね返した。今回の選挙戦で民衆党が「地上戦では不利だが、空中戦には強い」と形容されたのはそのためだ。

 一般に民衆党の支持層は若年層および既存政党離れが進む高学歴・高所得層とされる。鏡新聞が投票終了後に発表した世論調査によれば、柯氏の支持率が44歳以下の層で頼氏を上回りトップだった。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
宮城英二(みやぎえいじ) 1970年宮城県生まれ。新聞社、通信社、アジア各地の邦字メディアを経て、2007年からフリー。アジア各地に在住経験。アジア各国のニュース邦訳編集なども手掛ける。
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