
「私たちはガザを再占領しなければならない」
2024年1月28日夜、小雨が降るなか、エルサレムに集まった人たちは次々とガザ地区の再占領を口にした。これは、イスラエルの宗教極右の集会だ。
会場となったのは、エルサレムの終点駅「エルサレム・イツハク・ナボン」のすぐ隣にある、国際会議場。1960年代に建設された。世界シオニスト会議が開かれるなど、「シオニスト」感の溢れる会場だ。
会場に集まったのは宗教極右、もしくは「宗教シオニスト」と呼ばれる人たち。男性の多くは、入植者系であることを示すニット製のキッパ(キッパ・スルガ)を被り、長くカールしたもみあげを伸ばしている者もいれば、腰の辺りから、編まれたひものような「ツィツィット」を垂らしている者もいる。赤ちゃん連れも多く、母親の多くは、頭髪を見せないよう(ムスリム女性のそれとは違う方法で)頭にスカーフを巻き付けている。いずれも、ユダヤ教の戒律を厳格に守る「超正統派」とも異なる、宗教右派系の着装だ。
訪れた人たちに話を聞こうと会場をウロウロしていると、若者たちに話しかけられる。「どこからきたのか?」と聞かれ、「日本のジャーナリストだ」と答える。特に悪い反応はされない。そして、次には大体、「この戦争についてどう思うか? あなたはイスラエル寄りか?」と聞かれる。踏み絵を迫られているようにも感じる。しかし、こちらが「バランスをとって双方の言い分を伝えている」と答えると、相手は食い気味になり、「なぜバランスを取る必要なんてある?」と返される。「ガザで市民が犠牲になっているのも事実だから」と伝えると、「市民を盾にしているのだから仕方がないだろう」と、議論は堂々巡りになる。
「一人でもアラブ人が残れば、ハマスが再び侵食し、その人たちをハマスにしてしまう」
約3000人が入る会場はほぼ満席だった。国内外のメディアも集まり、会場は異様な熱気に包まれる。宗教極右の集会はいつも熱狂的だ。
筆者は、2021年5月のイスラエル・ハマスの衝突以来、継続的に極右勢力を取材してきた。集会会場に何度も足を運んできたが、毎回、その熱狂の度合いには驚かされる。イスラエルの識者の中には 、宗教右派のことを「lunatic」などと呼んで批判する人も 少なくない。
イスラエル建国に至ったシオニズム運動は主に世俗派による活動だったのに対し、宗教極右の思想の根底にある 「宗教シオニズム」は特に、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが領土を拡大して以降、特に活発になった。「エレツ・イスラエル(イスラエルの土地)」への帰還をユダヤ教的な救済のプロセスと考え、その救済を完全に実現するため、入植地の拡大などに政治的・宗教的な意味を見出している。"messianism(メシア主義)”とも呼ばれる。
今回の集会を主催したのは、国内で最も強硬派の入植者団体「ナハラ(Nachala)」で、宗教シオニズムと深く結びついている。リーダーを務めるのはダニエラ・ヴァイス氏で、入植者界隈で大きな影響力を持つ。

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