AIと脱炭素化で浮上したエネルギー安保の重要課題「電力供給セキュリティ」

執筆者:小山 堅 2024年6月3日
タグ: 半導体 脱炭素
エリア: その他
生成AIの急速な普及を可能にするためのデータセンターの増大や半導体製造の拡大などが、電力需要を一気に押し上げていく[半導体製造企業ラピダスの工場の建設現場を視察に訪れた(右から)斎藤健経済産業相、ラピダスの小池淳義社長、三橋剛北海道副知事、横田隆一千歳市長=2024年5月19日、北海道千歳市](C)時事
脱炭素化の流れは原子力・再エネなどのゼロエミッション電源へのシフトを通じてエネルギーの電力化を加速してきた。ここに加わるのがAIに代表される新たな情報革命が生む課題だ。データセンター利用や半導体製造の拡大は、電力の「量」のみならず従来以上に高い「品質」を求める需要を増やすだろう。電力の安定供給とリスク管理は世界的な課題として浮上しており、これからのエネルギー安全保障問題の中心の一つとなると予想される。

 エネルギーは日々の暮らしや経済・産業活動に必要不可欠の重要物資である。時には国家運営の安定・発展などを左右する「戦略物資」としての側面を強めることもある。この重要なエネルギーの安定供給を確保すること、すなわちエネルギー安全保障は、国家のエネルギー政策における基本中の基本である。

 エネルギー安全保障には様々な側面があるが、1973年の石油危機以降、石油の安定供給が常に世界全体でも最大の重要課題であり続けてきた。世界経済や国際政治、地政学的情勢や国家間の力関係への影響などの面において、最大の国際エネルギー貿易財である石油の重要性が際立っているからである。気候変動対策強化の中で石油需要のピーク到来が喧伝されるようになっているが、石油の重要性・戦略性は今後も相当な期間において維持され、石油に関するエネルギー安全保障は重要であり続けよう。

 しかし、今日の国際エネルギー情勢の一つの大きな特徴は、エネルギー安全保障問題が複雑化していることである。エネルギー安全保障における石油の重要性は変わらないものの、ガス・LNG(液化天然ガス)の供給セキュリティも世界の注目の的となっている。2022年に発生したウクライナ危機で欧州を中心にガス価格が異常な高騰を示し、ガスを中心としたエネルギー危機が発生したこともこの問題への関心を高めることとなった。また、より新しく、今後の重要課題としては、エネルギー転換に必要不可欠となる、リチウム・コバルト・レアアースなどの重要鉱物の安定供給問題が浮上しているのである。

カーボンニュートラル実現なら電力化率は5割超え

 こうした中、これからエネルギー安全保障問題の中心の一つとなると予想されているのが電力の供給セキュリティ問題である。その理由は、今後、我々の生活や経済がますます電力への依存を高め、電力の重要性が大きく増していくこと、その中で電力安定供給には様々な課題が浮上しているからである。電力は、極めて身近であり、利便性が高く、利用段階では極めてクリーンで環境汚染物質などの排出が無い。社会の情報化・IT化・デジタル化などが構造的に進んでいく中、電力の安定供給無しに現代の生活はありえない、ということさえできるだろう。

 電力の将来を考えると、ただでさえ増加していく電力需要をさらに大きく押し上げていく要因が今の社会情勢の中で浮上している点に留意しなければならない。

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執筆者プロフィール
小山 堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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