米「エネルギードミナンス」戦略で日本はアジア市場との「架け橋」となれるか

執筆者:小山堅 2025年3月18日
タグ: トランプ 日本
エリア: アジア 北米
トランプ大統領は、エネルギー分野での日本との協力を重要視している[テキサス州ヒューストンで開催されたエネルギー会議「Ceraweek by S&P Global」で、S&P Globalのダニエル・ヤーギン副会長(右)と対談するクリス・ライト米エネルギー省長官(左)=2025年3月10日](C)AFP=時事
日本が第2次トランプ政権と協力できる分野として、アラスカ産をはじめとした米国LNGの販路拡大が挙げられる。地理的にも米国内政上も、アラスカLNGはアジア市場への輸出に適した特性があるが、最終的には価格競争力の確保がカギを握る。また、日本の輸入拡大のみならず、LNG消費・輸入の先駆者として米国の対アジア輸出拡大に向けた「架け橋」となることが求められるだろう。

 トランプ2.0が凄まじい勢いで世界を揺さぶり続けている。2月28日の米・ウクライナ首脳会談の衝撃的な決裂は、ウクライナは元より欧州をも震撼させた。ロシア・ウクライナ戦争の停戦と和平に向けてドナルド・トランプ大統領はロシアやウクライナに積極的に働きかけ、欧州には防衛負担の大幅引き上げを求める姿勢を強めている。EU(欧州連合)はその地政学的現実を踏まえ、3月6日には最大8000億ユーロ(約129兆円)の巨大な予算を講ずる「欧州再軍備計画」を発表した。また同6日、トランプ大統領は日米安全保障条約では「日本は米国を守る必要が無い」ことになっているとして、防衛の片務性に関して不満を表明した。今後、防衛問題に関して日本への圧力が高まる可能性もある。

 経済面では、関税問題が世界を揺さぶっている。メキシコ・カナダへの関税導入や猶予の発表、中国へのさらなる追加関税、鉄鋼・アルミニウムや自動車への関税などを巡る方針表明や発言で、世界経済に動揺が走り、株価が乱高下する状況となった。

 こうした状況下、日米関係の今後の展開にも留意が必要である。2月7日に実施された日米首脳会談は日米協力の重要性を相互確認する形になり、一定の成功を収めたと日本側では評価する向きが多い。しかし、上述のようなトランプ2.0の激動が続く中、日本として日米関係強化に向けて油断があってはならない。日米首脳会談で合意された、あるいはトランプ大統領が関心を持つ、日米間の協力をしっかりと進めていく必要がある。

アジア向け輸出でメリットを有するアラスカLNG

 その点で、日米エネルギー協力は極めて重要である。米国の巨大なエネルギーポテンシャルを解放し、「エネルギードミナンス」を追求するトランプ大統領は、この面での日本との協力を重要視している。エネルギー輸入国として、エネルギー安全保障強化が国是である日本にとって、同盟国である米国とのエネルギー関係強化は重要な意味を持ちうる。双方にとって利益をもたらす「ウイン-ウイン」のエネルギー協力推進と強化が求められている。

 その文脈で、エネルギー協力の中でもLNG(液化天然ガス)分野での協力はひときわ重要性が高い。シェール革命の成果で、米国は今や世界1位のLNG輸出国へと成長し、その供給量は今後も「巨大な波」と称されるような形でさらに拡大していくことが予想されている。トランプ大統領も米国LNGの大幅拡大を前提として、日米協力を推進しようとしている。

 米国のLNG供給の将来に向けた拡大の中で、トランプ大統領が大きな関心を寄せているのがアラスカLNGの開発である。アラスカに賦存する膨大な天然ガス資源を開発し、1300kmの新規パイプラインを建設して液化施設まで輸送、そこで液化したガスを太平洋岸の基地から輸出することで、日本などアジア市場を販路とする巨大プロジェクトが検討されている。

 現在までの米国のLNG輸出プロジェクトのほとんどが、メキシコ(アメリカ)湾岸で立ち上がってきたものであり、今後もその拡大は続く。これらのプロジェクトからアジア向けに輸出をする場合は、パナマ運河を経由するか、それが難しい場合(最近は現実問題として顕在化)には、喜望峰回りとなるなどの輸送ルートが用いられる。その点で、もしアラスカでのプロジェクトが成立すれば、アラスカから日本やアジアまでの輸送距離は圧倒的に短縮され、輸送日数やコストも低くなる。さらに、パナマ運河のような輸送上の「隘路」を通る必要もない。

 また、メキシコ(アメリカ)湾岸のプロジェクトは、米国本土48州に張り巡らされたパイプライン網で米国市場と密接なリンケージを持つことになるため、懐の深い市場・供給を背景にするという利点がある一方、仮に今後の大幅なLNG輸出の拡大が国内でのガス需給逼迫に影響を及ぼすような場合、ガス価格の上昇によってLNG輸出と国内ガス利用の間で軋轢を発生させるような可能性も考えられないわけではない。その点、アラスカのLNGは本土48州からは切り離されているため、米国市場でのガス価格上昇を引き起こすようなことは全く考慮する必要が無い、という特徴も有する。

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執筆者プロフィール
小山堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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