
石破総理「現状においては極めて厳しい状況だということは認識しております」
総選挙の投開票日の夜、午後10時から始まった各放送局とのリレーインタビューで自民党石破茂総裁は苦渋の表情を浮かべ、選挙の中間結果についてコメントした。
先週、筆者は自民党の単独過半数割れの可能性が高くなってきたとして、石破政権は同じく単独過半数割れに追い込まれた森喜朗内閣の時のように政権基盤が弱くなり「加藤の乱」(2000年秋に加藤紘一元自民党幹事長が、野党の提出した森内閣不信任案に同調しようとした党内政局)のような政権を脅かす動きが生じる可能性を指摘した。
しかし、石破や自民党にとって事態はさらに暗転することになった。
非公認候補への2000万円で暴落した森山幹事長の評価
選挙戦終盤に差し掛かった23日。ある自民党関係者は困惑を隠しきれない表情でこう語った。
「非公認の候補に2000万円って本当?」
共産党の機関紙『しんぶん赤旗』はこの日、「裏金非公認に2000万円 公認と同額 自民本部が政党助成金」という見出しで、裏金事件で非公認となった候補者が代表を務める党支部に、自民党が「党勢拡大」名目で公認候補の活動費・公認料と同額の2000万円を支給していたと報じた。
石破や森山裕幹事長ら党執行部は裏金事件に毅然と対応するため、2700万円以上の不記載が発覚した萩生田光一元政調会長や、安倍派幹部として裏金の扱いの協議の場に参加していた西村康稔元経済産業大臣らを非公認とすることを決めたのだが、そのすぐそばからこんなカネのやりとりを行っていたことが発覚すれば有権者の怒りを買うのは火を見るよりも明らかなことだった。
『赤旗』の記事を受け自民党は森山幹事長名で「党勢拡大のため活動していただきたいという趣旨」であったとのコメントを発表し、支部への入金の事実を認めた。
石破「なんとか自由民主党の公約、自由民主党の政策、それを分かってもらいたい、その思いで政党支部に出しておるのであって、非公認候補に出しておるのではございません」
(24日・広島での街頭演説)
石破は選挙戦を通してこの2000万円の支給について「非公認候補へのカネではない」と繰り返し強弁したが、世論はもちろん、多くの自民党員からも共感は得られなかった。
「非公認にしておいて公認と同額支払うなんて有権者への背信行為だ」(自民党関係者)
「有権者を馬鹿にした話だ。なぜ投票日直前にこんな話が出てくるんだ。選挙はガタガタになるぞ」(自民党関係者)
非難の矛先は石破でなく、石破を陰で操る党ナンバーワンの実力者森山幹事長に集中した。
「これは自爆テロだ。森山さんの責任論は避けられない」(自民党議員)
「石破さんはともかく、森山さんはもう少しマネジメント能力のある人だと思っていたが買い被りだったようだ」(自民党幹部職員)
この2000万円問題がトドメの一撃となり、自公は与党で過半数割れに追い込まれ、獲得議席は自民191、公明24の215議席にとどまった。一方の野党は立憲民主が148、日本維新の会が38、国民民主が28で野党第1党、第2党、第3党の議席を合わせると214議席となり、与野党の勢力が本当に拮抗していることがわかる。
野党がバラバラだから与党は首班指名に自信
与党にとっては議席数の大幅減もさることながら、大物候補の落選も相次いだ。特に公明党は9月に就任したばかりの石井啓一代表が落選、議員バッジを失った。公明党の代表の落選は2009年の太田昭宏代表以来のことだ。一方、自民党も武田良太元総務大臣や甘利明元幹事長、下村博文元文部科学大臣などの“大物候補”が相次いで落選。この他、牧原秀樹法務大臣、小里泰弘農林水産大臣の現職閣僚までもが落選した。
まさに民主党政権が誕生した2009年以来の与党の歴史的大敗を受け、石破がどう自分の責任について言及するかに注目が集まったが、各メディアとのやりとりで石破は続投に意欲を見せた。
記者「いまの職責をこれからも全うされる考えか?」
石破「それはそういうことです。これから先どうやって私たちが掲げた政策を実現していくか、そのことに向けて努力は最大限していかなければならない」
また石破以上に2000万円問題で批判を浴びた森山幹事長も「責任を果たしていきたい」と続投する考えを示した。
石破・森山が続投に意欲を示す一つの理由は、与党で過半割れとはなったが、野党側が必ずしも一枚岩で“非自民政権”の成立を目指しているわけでないという政界の事情を知悉しているからだ。

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