無極化する世界と日本の生存戦略 (15)

第2次トランプ政権の対外関与と「4つの地域」をめぐる地政学的戦略(下)

執筆者:森聡 2025年1月29日
エリア: 北米
トランプ時代のアメリカには、目指すべきアメリカのビジョンはあっても、目指すべき世界のビジョンはない[カリフォルニア州サン・イシドロ近郊の南部国境の壁沿いで、有刺鉄線を調整する米海兵隊員2025年1月27日](C)US Department of Defense/Lance Cpl. Caleb Goodwin/AFP=時事
トランプはアメリカが自ら築いた戦後レジームの変革に乗り出すだろう。それがどのような軋轢や混乱を引き起こすのか、そしてどの取組みが行き詰まり、どれが新たな常態を生み出すのか。まずはロシア・ウクライナ停戦合意の仲介外交が焦点となるが、欧州の安全保障についてはアメリカの負担を減らすことが既定路線だ。欧州、中東、インド太平洋、西太平洋・北米の4つの地域をめぐる地政学的戦略を見通した上で、「ポスト・プライマシー」時代のアメリカが国際秩序を多元化させてゆく可能性について考察する。

 

4つの地域に向けたジオストラテジー

 抑制主義者たちと優先主義者たちは、政策審議を重ねて、様々な国際安全保障問題への対応を検討していくことになる。政権発足初日に出された国家安全保障大統領覚書第1号(NSPM-1)は、国家安全保障会議(NSC)、閣僚級委員会(PC)、副長官級委員会(DC)、政策調整委員会(PCC)、ならびに関連事務局の業務や機能、手続きなどを明示した(https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/01/organization-of-the-national-security-council-and-subcommittees/)。従来からの制度に大きな変更はないが、NSCと国土安全保障会議(HSC)との緊密な連携を意識した制度と手続きが示されている。国家安全保障問題担当大統領補佐官ウォルツは、各省庁からNSC事務局に出向していたスタッフ160名あまりをNSCから離任させ、大統領のアメリカファーストのアジェンダの実現に完全にコミットする人材でNSC事務局を充当すると述べるなど、やはり忠誠心重視の姿勢が顕れた対応が取られている。ウォルツが長官級の集まる閣僚委員会、国家安全保障問題担当筆頭次席補佐官アレックス・ウォンが副長官級委員会、それぞれのとりまとめ役となって、各種政策の見直しや調整などを主導することになるはずである。

 ただし、最終意思決定権者はあくまでトランプなので、その予測不能な鶴の一声で様々な政策が変更される可能性はもちろんある。したがって、現時点でできることは、既存の決定を踏まえつつ、大きな取り組みの方向性を様々な可能性のある幅として検討するということであろう。今のところそれは欧州と中東におけるアメリカの防衛負担ないし軍事的関与を減らし、インド太平洋と北米・西半球に安全保障上のリソースを振り向けていくような地政学的な戦略を志向するものとなりそうである。

■欧州

 欧州戦略ではトランプだけではなく、抑制主義者も優先主義者も、欧州諸国が欧州防衛のコストの大半を負うべきだとする基本的な考え方で一致しているとみられる。したがって、安全保障面での負担をアメリカから欧州諸国に転嫁していくような二通りの取り組みが展開される可能性がある。

カテゴリ: 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
森聡(もりさとる) 慶應義塾大学法学部教授、戦略構想センター・副センタ―長 1995年京都大学法学部卒業。2007年に東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。法政大学法学部准教授、同教授を経て2022年より現職。著書に『ヴェトナム戦争と同盟外交』(東京大学出版会)、『国際秩序が揺らぐとき』 (法政大学現代法研究所叢書、共著)、『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』(東京大学出版会、共著)、『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』(東京大学出版会、共著)、『アメリカ太平洋軍の研究』(千倉書房、共著)などがある。博士(法学)。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top