トランプ支持者の救世主? ベッセント米財務長官のチャンスと義務
Foresight World Watcher's 6 Tips

米トランプ政権の経済・外交運営で、スコット・ベッセント財務長官の存在感がひときわ高まってきています。関税をめぐる日米交渉も米側はベッセント氏が主導し、24日には米ワシントンにおいて為替問題で加藤勝信財務相と会談の見通しです。
今週後半に署名されるというウクライナとの資源協定についてもベッセント氏の所管になっているようです。同協定は単に資源にとどまらず、背後にはウクライナに対する安全保障の提供とそれへの対価の問題があります。ベッセント氏は3月6日にニューヨーク経済クラブで行った演説で「米国は巨大な需要を提供し、世界平和の裁定者としての役割を果たしたが、十分な補償を受けられなかった」との見解を示していますが、「安全保障のコスト回収」が第2次トランプ政権の大きなテーマだとすれば、経済閣僚がその実現に大きな役割を果たすのも必然と言えるかもしれません。
ベッセント氏の掲げる「国際経済関係の再構築プロセス」については、毎週金曜に公開している連載コーナー「トランプ大統領の発言とアクション」(ストリート・インサイツ代表取締役の安田佐和子氏執筆)の最新回をご一読いただければと思いますが、今回の本欄ではベッセント氏の人物像や関係者の評価などにも注目して記事ピックアップを行いました。
ウクライナの国内政治、台湾軍の抱える問題(根源を“文化”に見るところが興味深い)に関する論考もあわせ、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事6本。よろしければご一緒に。
[Person in the News]Scott Bessent, the Treasury secretary shaping Trump's trade war【James Politi, Amelia Pollard, James Fontanella-Khan/Financial Times/4月12日付】
「歴代の財務長官たちは、国際金融危機のときのティム・ガイトナーやハンク・ポールソンから、パンデミックの絶頂期のスティーブン・ムニューシンやジャネット・イエレンまで、深刻な経済・金融問題の発作に直面してきた。しかしベッセントは、トランプ大統領が世界中からの幅広い輸入品に10%の関税を課し、多くの主要貿易相手国に上乗せ関税をかけ、中国への課税を大幅に強化したことで、彼が仕える大統領によって世界にもたらされた衝撃の波紋を管理する責任を負っている」
「彼の支持者にとっては、ベッセントは潜在的な救世主であり、強硬派がひしめく政権のなかで、トランプと本格的な世界貿易戦争の間に立ちうる最高幹部として浮上している。先日の日曜[4月6日]にフロリダでトランプと会談した後、米大統領は日本や韓国との協議の扉を開き、ベッセントをその責任者に据えた。トランプが中国以外について最も厳しい関税の90日間の一時停止を発表した水曜[4月9日]にも、ベッセントは大統領執務室にいた」
「『彼はトランプ大統領のアジェンダを軌道に乗せ、経済や金融市場を混乱させないようにするのに最適な人物だ』と、米コロンビア大学ビジネススクールで金融・経済学を担当するマイケル・オリバー・ワインバーグ教授は語る。『政権内には、経済や市場、好況と不況に詳しくない人もいるが、スコットは違う』」
トランプ関税による金融市場の混乱が一段落したように見える今、事態の収拾の立役者と目されるベッセント米財務長官に注目が集まっている。大統領からは関税をめぐっての日本や韓国との協議の責任者としても、ジェミソン・グリアUSTR代表やハワード・ラトニック商務長官ではなく、彼が指名された。
英「フィナンシャル・タイムズ(FT)」紙は、ほぼ週1回のペースで話題の人を取り上げる「Person in the News」枠で「トランプの貿易戦争のありようを決めるスコット・ベッセント財務長官」(4月12日付)を掲載。彼を上記のように評し、その来し方を次のように紹介する(筆者はワシントン支局長のジェイムズ・ポリティ、デューディリジェンス担当記者のアメリア・ポラード、米ファイナンス・エディターのジェイムズ・フォンタネラ=カーン)。
▼1962年、米サウスカロライナ州コンウェイ生まれ
▼父は不動産投資家、母はそのサポート役
▼イェール大で政治学の学士号を取得
▼1990年代初頭、ジョージ・ソロス運営のヘッジファンドに参加
▼ロンドンを拠点とし、1992年、英ポンドの売り浴びせで「重要な役割を果たした」
▼ソロスのもとでは日本円の取引でも「成功を収めた」
▼2011年、元ニューヨーク州検事と同性結婚。2児を持つ
▼2015年、自身のヘッジファンドを立ち上げ
▼2017年と24年、トランプ陣営に資金提供
▼第2次トランプ政権での財務長官就任を支持したのはスティーブ・バノン(FT紙へのテキストメッセージでバノンは「彼は私の部下だ」と書いている)
DEI(多様性・公平性・包摂性)を目の敵にする感さえあるトランプ政権において、ゲイであることを公表した初の財務長官に就任する。あるいは、開かれた社会を目指し、権威に抗うことも辞さないソロスの懐刀だったにもかかわらず、トランプ革命においてはむしろ市場との調整役を務める――。

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