「驚きの教皇」フランシスコが国際政治に遺したもの
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ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の葬儀が26日、バチカンで行われました。葬儀には160を超える国・地域から外交団が参列し、集まった国家元首は約50人を数えたと伝えられます。
葬儀の傍らで進められた弔問外交も多数。もっとも注目されたのは、2月の米ワシントンで口論を繰り広げたウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領とドナルド・トランプ米大統領の再会でしょう。サンピエトロ大聖堂での膝詰め会談で何が話し合われたかは未発表ですが、ホワイトハウス当局者は「非常に生産的な協議」だったと述べています。
カトリック教徒は世界で14億人を超えるとされ、その8割近くは欧州以外の地に住みます。アルゼンチン生まれのフランシスコは、南米出身者で初の教皇(そもそも、8世紀のグレゴリウス3世以来、1272年ぶりの非欧州出身の教皇)であり、イスラム教発祥の地であるアラビア半島を教皇として初めて訪問するなど、カトリックの「脱・欧州中心」を進めたとされます。
「脱・欧州中心」は、教皇の国際政治における存在感を高めることにもつながりました。バチカン(ローマ教皇庁)は1951年に中国と国交を断っていますが、そのきっかけになった司教の任命権問題について、フランシスコは中国と2018年に合意を結び、関係改善を進めました。バチカンは台湾が外交関係を結ぶ欧州唯一の国であり、新たな教皇のスタンスは中台関係にも影響します。あるいは、J・D・バンス米副大統領は2019年にカトリックに改宗しています。米国内で人口が増え続ける、多くがカトリック教徒のヒスパニック系を意識したものともされますが、バンス氏がトランプ大統領の「次」を狙うのなら、バチカンとの関係はやはりキーポイントになるでしょう。次期教皇を選ぶ「コンクラーベ」は、5月上旬にも実施されます。
バチカン関連記事に加え、エルドアン政権による権威主義的な国政運営が波紋を広げるトルコ、ピート・ヘグセス米国防長官の更迭説などに関する注目記事など、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事7本。よろしければご一緒に。
Making Some Noise for God【Maria Clara Bingemer/Foreign Affairs/雑誌版2018年7・8月号(オンライン公開は同年6月14日付)】
「[正式な就任演説を行なわず、サンピエトロ広場を見下ろすバルコニーで就任の挨拶を済ませた]その瞬間から、フランシスコは謙虚なオーラを出す機会を決して無駄にしなかった。家庭を訪問したり、コーヒーを楽しんだり、病気の参拝者を抱きしめたり、小さな子供にキスをしたり、さらには眼鏡店で新しい眼鏡を買ったりするフランシスコの映像があふれている。[略]バチカンはまた、フランシスコ教皇は遠く離れた神秘的な人物ではなく、他の人々と同じ庶民であり、多くの人々のなかのイエス・キリスト信者のひとりに過ぎないという考え方を強めている」
「こうした努力にもかかわらず――あるいはそのおかげもあるだろうが――フランシスコはカトリック教会史上、最も偏向した人物のひとりであることが証明された。彼は超保守主義者を激怒させ、伝統主義者を不安にさせる。[略]しかし、フランシスコは進歩的な人々を喜ばせている。彼らは、前任者のヨハネ・パウロ2世とベネディクト16世が、急速に世俗化する世界の中で教会を宗教的保守主義の砦として位置づけていた30年以上にわたる教会の冬の時代の終わりを告げるものとして、フランシスコの教皇選出を歓迎した」
「[メディアやジャーナリストにとって]この物語は、若者やリベラル派、そして教会から離れていた多くのカトリック信者が、新教皇を、社会的弱者の苦境に対処し、環境保護に尽力する、親しみやすく、実直で、開放的な改革者と捉えて、好意的な感情を抱くことから始まった。そのような立ち位置と、教皇の気さくな物腰は、直前の教皇である気難しく貴族的なベネディクトが求めたことも勝ち得たこともない、大衆文化的な有名人としての地位を獲得した」
フランシスコ教皇の死去を受けて米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌サイトは、2018年7・8月号にブラジルの教皇カトリック大教授、マリア・クララ・ビンゲマーが寄せた「神のために騒ぐ」(オンライン公開は2018年6月14日付)をトップ画面に“再掲”した。

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