中国がイラン情勢から距離をとる理由
Foresight World Watcher's 5 Tips
米・イスラエルによるイラン攻撃開始から1週間余りが過ぎました。開戦に至る経緯を追った米「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」の話題のスクープ記事(詳細は下で紹介します)から浮かび上がるのは、イスラエルに手を引かれるように攻撃へ前のめりになったトランプ政権の姿です。ドナルド・トランプ大統領はダン・ケイン統合参謀本部議長が「容易に勝利できる」と述べたと発信していましたが、実際には「戦争はアメリカに多大な犠牲をもたらす可能性がある」と伝えたことなど、ホワイトハウス内部の認識の乖離が露わになります。中東関与に消極的とされたJ・D・バンス副大統領は、攻撃するなら「大規模かつ迅速に」と主張したようです。
しかし、戦局は「迅速に」終了する気配がありません。最高指導者ハメネイ師殺害後のイランの体制転換に米国がどのように関与するのか定かでなく、クルド人武装勢力の蜂起を後押しするとも伝えられてきましたが、直近のトランプ大統領はこれについて「望ましくない」と語ったようです。イランの国民の約半数は非ペルシア人コミュニティーに属するとされ、こうした社会の複雑性まで視野に入れれば、体制転換が容易に行えないのは明らかです。
一方のイランも、いわば世界を“巻き添え”にする戦略をとっています。ミサイルやドローンで湾岸諸国に被害を与えるのみならず、ホルムズ海峡の封鎖で経済的な打撃を世界に与え、他国からの圧力で米・イスラエルを止めることが狙いと見られます。ここから導きだされるのは、イランにとっては戦争を長期化させるほど、有利な環境が整うことです。
視野を国際政治に広げれば、やはり注目されるのは米中関係への含意です。中国にとって、イラン産原油の輸入が途絶することがどの程度のダメージになるのかは、議論が分かれるところです(もちろん、途絶が長期化すれば経済に悪影響が出るのは確実です)。また、イランに期待してきたのが中東への橋頭堡という役割であるならば、弱体化した現体制ではなく、新たな体制との関係構築を重視する可能性もあるでしょう。
つまり、中国はイランを積極的には支援しないとの見方が目立つのですが、仮に米国がイランとの関係を理由に中国にも圧力を加えようとするならば、局面はまた変わってくるでしょう。昨年の懲罰的関税の応酬に「勝利した」と自信を深めた中国が、レアアースや農産物の貿易で再び反撃するシナリオも想定すべきとの議論があります。
そのほか、“イランの次”とも囁かれるキューバに想定されるシナリオなど、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事5本、皆様もぜひご一緒に。
How Trump Decided to Go to War【Mark Mazzetti, Julian E. Barnes, Tyler Pager, Edward Wong, Eric Schmitt, Ronen Bergman】
イスラエルと米国によるイラン攻撃が始まってすぐ、3月2日付でNYTが放ったスクープは、タイトルどおり「いかにトランプは開戦を決意したか」について多面的かつ詳細に報じ、大きな注目を集めた。
記事が明かした攻撃開始までの主な経緯は次のようなものだ。
▼昨年12月――イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が訪米。マール・ア・ラーゴでトランプに、イスラエルがイランのミサイル基地を「今後数カ月以内に攻撃」することについて承諾を求める
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