饗宴外交の舞台裏 (143)

国民の心を動かした2つのサッカー国際試合

執筆者:西川恵 2009年12月号

 十月、二つのサッカーの国際試合が注目を浴びた。一つは国と民族の誇りを確認する場となり、もう一つは長年反目してきた国同士の和解を演出した。 パレスチナ自治区のヨルダン川西岸の都市アラム。二十六日、パレスチナとヨルダンの女子チームによる親善試合がもたれた。自治区でサッカーの国際試合が行なわれたのは初めてだった。スタジアムはパレスチナ人観客一万人で埋まり、三分の二が女性。自治政府のサラム・ファイヤド首相や、国際サッカー連盟(FIFA)が派遣した幹部も観戦した。 パレスチナのチームは赤いユニフォーム、ヨルダンチームは白。大部分が半袖シャツに膝上パンツ。イスラム教の戒律を守り、スカーフを被り、パンツの下にタイツをはいた女性は数人だけ。紅白の選手がボールを追ってピッチを駆け回ると、パレスチナの国旗が打ち振られ、自治政府の故アラファト元議長の肖像が大きく揺れた。

カテゴリ: スポーツ
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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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