ブックハンティング・クラシックス (28)

外交の「地味な道具立て」を論じて外交の本質を把握させる不思議

執筆者:佐瀬昌盛 2007年6月号
エリア: アジア

『外交』ハロルド・ニコルソン著/斎藤眞・深谷満雄訳東京大学出版会 1968年刊 四十年ほど前、私は本書を義務感から読んだ。本書は外交官や国際政治学徒の「必読書」だという声が当時、囂しかったからだ。読んで得たものは無論あった。外交の「政策」と「交渉」とを、つまり、外交の「立法的」側面と「執行的」側面をきちんと区別せよ、とか、ウィルソン米大統領の登場で時代精神となるかに見えた「公開外交」の「公開」性とは「政策」論議には必要だが、「公開の交渉などまったく実行不能」とかのくだりには傍線を引いた。「交渉」に携わる職業外交官の「徳性の第一は誠実である」の指摘にも傍線を引いた。それらが著者の基本的主張だからだ。まるで暗記事項のように、私はそれらを記憶した。が、正直、これで「学徒の義務」のひとつは果たしたとの気持の方が強かった。

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執筆者プロフィール
佐瀬昌盛(させまさもり) 防衛大学校名誉教授。1934年生れ。東京大学大学院修了。成蹊大学助教授、防衛大学校教授、拓殖大学海外事情研究所所長などを歴任。『NATO―21世紀からの世界戦略』(文春新書)、『集団的自衛権―論争のために』(PHP新書)など著書多数。
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