ロシアが入り込むEU内の「境目」

執筆者:国末憲人 2010年4月号
エリア: ヨーロッパ

 ロシアのメドベージェフ大統領が国賓としてフランスを訪問したのは三月一日のことだった。私たちが待ちかまえる中、エリゼ宮(仏大統領府)の前庭に敷かれた赤絨毯を歩み来て、サルコジ大統領と大げさな身ぶりの握手を交わした。大挙してやってきたロシア人記者団と屈強な衛兵らに囲まれ、身長百六十センチ台前半といわれる二人は、いつもよりさらに小さく見えた。 宮殿内で共同記者会見に臨んだ両首脳は「フランスにとってロシアは偉大なる友だ」「二十世紀に存在した両国間の問題は今や消え去った」と、互いに持ち上げ合った。報道陣から質問が飛ぶ。イラン核開発問題への対応、エネルギー供給問題といった定番のテーマ以上に報道陣が関心を抱いたのは、フランスのミストラル級強襲揚陸艦の売却交渉の進展ぶりについてだった。

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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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