饗宴外交の舞台裏 (152)

故小渕首相が「蝦夷松」に託した北方領土返還へのメッセージ

執筆者:西川恵 2011年1月18日
エリア: アジア

 日本の首相で饗宴外交の真髄に最も通じていたのは誰だろう。食事や、それに付随するエンターテインメント、儀礼といったものに明るく、それらが首脳外交において決して小さくない役割を演じることを知っている、という意味でだが、私は故小渕恵三首相をおいて他にいないと思う。
 饗宴内容やそのとり運びについて、ほとんどの首相は秘書官任せだ。しかし小渕首相は、メニュー内容、招待者選び、席次など、細部まで自分で確認し、指示を出した。コの字型の配置だった首相官邸のテーブルを「堅苦しくない形に」と、長方形のメインテーブルと、幾つもの小ぶりな丸テーブルの組み合わせにさせたのも同首相だった。
 2000年に日本が主催したG8サミット(主要国首脳会議)の開催地を沖縄と決めたのも同首相で、饗宴という点で最も成功したサミットでもあった。残念ながら同首相はサミットを前に急死。本番は森喜朗首相がホスト役を務めたが、すばらしい饗宴に感激したフランスのシラク大統領は、シェルパの野上義二・外務審議官(当時)にレジオン・ドヌール勲章を贈った。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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