深層レポート 日本の政治 (79)

「最強の敵」に塩を送った北朝鮮“テポドン大はずれ”

執筆者: 2006年8月号
エリア: アジア

「北朝鮮がミサイル発射」との緊急連絡が、首相官邸の地下にある危機管理センターから小泉純一郎首相と、安倍晋三官房長官ら関係三閣僚に秘書官経由で入ったのは七月五日未明、一発目のミサイルがロシア沿海地方南方の日本海に着水した直後のことだった。予め首相から対応を一任されていた安倍氏は素早く身支度を整え、自宅前に待機させていたハイヤーに飛び乗った。官邸に到着したのは午前四時半、ちょうど東の空から太陽が昇り始めていた。 安倍氏には心に期すものがあった。思えば一九九三年に衆議院議員に初当選して以来、自分は日本人拉致問題への取り組みを通じて常に北朝鮮と対峙してきた。二〇〇二年九月十七日の小泉首相の初訪朝に同行した際は、昼食休憩時に「金正日総書記が拉致への国家の関与を認めて謝罪しなければ、日朝平壌宣言に署名すべきではありません」と首相に強く進言した。盗聴されていると見越し、北朝鮮側に揺さぶりをかけたのだ。狙いは的中し、午後の会談で金総書記は謝罪と遺憾の意を表明した。こちらが柔軟な姿勢を見せた途端にあの国はいくらでも付け上がる。毅然とした態度で対処しなければ――。昇る朝日を視線の端に捉えながら、安倍氏は改めて自分自身に言い聞かせていた。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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