「同日選」はどうなる?:「アベノミクス成功」と「消費税上げ」のジレンマ
自民党議員らで構成される「アベノミクスを成功させる会」が5月20日に首相官邸に提出した提言書が波紋を広げている。最近、与野党双方で消費税増税延期論が高まっている中で、この提言書が、予定通り来年4月に消費税率を10 %に引き上げることを求める内容だったからだ。
1年半前は「先送り」を推した「成功させる会」
この会は安倍晋三首相ときわめて近い関係にある。会長を務める自民党の山本幸三元経済産業副大臣は、金融緩和によるデフレ脱却を訴えるリフレ派の代表的な論客の1人である。民主党政権時代の野党・自民党にあって、山本氏は安倍首相と金融政策の検討を重ねてきた経緯があり、アベノミクスの立役者の一人とも言われている。
山本氏が「アベノミクスを成功させる会」を発足させたのは2014年10月22日。当時は1年後の消費税率10%への引き上げが議論になっており、山本氏らは「何としてもアベノミクスを成功させなければいけない。経済を失速させるわけにはいかない」との思いから消費税率引き上げを1年半先送りすることを主張した。
そのころ、税制に関して強い発言力を持っていた自民党税制調査会(党税調)内では、予定通りに消費税率を引き上げるべきだという意見が主流だった。このため、自民党内では党税調と「成功させる会」が真っ向から対決する構図となった。
「成功させる会」の背後には、菅義偉官房長官がいると言われていた。また、もともと山本氏は安倍首相と近い関係にあったため、「成功させる会」の発足そのものが、消費税率引き上げを延期したい首相官邸との密接な連携の上に仕組まれたものなのではないかという憶測も呼んだ。
事実、「成功させる会」の発足から1カ月もたっていない11月18日、安倍首相は首相官邸で記者会見して、消費税率引き上げの1年半先送りと衆院解散の意向を表明した。そして、その後の12月の衆院選で自民党は大勝したのだった。
衆院を解散して選挙で勝ちたいが、消費税増税問題を抱えたままでは勝ちにくいから、税率引き上げを延期したい――。そういう安倍首相の意図を現実化するために、自民党内世論を増税延期でまとめる役回りを担ったのが、「成功させる会」だった。つまり、1年半前の2014年政局で、「成功させる会」は安倍首相とは離れた位置にありながら、安倍首相と一心同体で動く別働隊のような存在だったのだ。
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