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金井真紀・文と絵 広岡裕児・案内『パリのすてきなおじさん』 評者:東えりか

2017年12月24日
タグ: フランス 日本
エリア: ヨーロッパ アジア

おじさん観察で見えてくるパリの街の深部と歴史

 同じ書店を定期的に訪れると新刊本の発見だけでなく、四季の移り変わりも感じたりする。ある秋の日、平台にひときわ鮮やかな一角を見つけた。本の三分の二を覆う黄色い帯の同じ本が四冊。それぞれに洒落た男性のイラストが描かれている。タイトルは『パリのすてきなおじさん』。焼き栗の香りが漂ってきそうと手に取ると、中にはさらに素敵なおじさんのイラストが満載されている。

柏書房/1728円

 こういう出会いは経験上、絶対逃してはいけない。本好きの血が騒ぐ。すぐに買って、近くのコーヒーショップのテラスで読み始めた。
 金井真紀は「選おじさん眼」に優れた作家兼イラストレーター。無類のおじさんコレクターだという。パリ在住四十年のジャーナリストで「ぼくの商売道具は好奇心」という広岡裕児と組んで取材したパリのおじさんは、なんと六十七人に及ぶ。
 おしゃれなおじさん、アートなおじさん、おいしいおじさん、あそぶおじさん、はたらくおじさん、いまを生きるおじさん、とディープなところに嵌(はま)っていくのにドキドキする。下は二十五歳(自称)から上は九十二歳まで、パリで暮らすまでの紆余曲折から人生訓まで、含蓄ある話をしてくれるのはこの町のマジックか。
 この町にはおしゃれなおじさんがいっぱいいるイメージだが、実際はそうでもないらしい。だが「これぞ」と思うおじさんは素敵だ。
 冒頭に紹介された五十歳の画家は、両親がカリブ海のフランス領出身。かつてはピアニストをしていたという。黒い肌に黒いセーター、抱えているのは高級そうなチビ犬。白と黒の概念を語るなんて、なんかパリだなあ、と読むだけでうっとりする。
 手仕事に拘(こだわ)る彫金師、旅行会社のマーケターから転身したワイン屋の店主、パリのサッカーチームPSGのサポーター御用達のバーを開いた熱狂的ファン、毎日競馬場に通う九十二歳の元馬主。彼らの深い言葉にはやはりワインが似合いそうだ。
 パリは移民の街。日本人には理解しにくいが本書はさらりと教えてくれる。声をかけたおじさんたちの出身が様々なのだ。移民と難民が混在している街中で、エトランジェの日本人が目を輝かせて聞き入る姿が目に浮かぶ。ディープな場所では用心棒の広岡の勘が冴え渡る。
 第二次世界大戦の哀しい記憶も、テロや暴動の現場も、難民申請受理を待つ人々もパリの街に漂っている。
 帯に描かれた四人のおじさんのルーツはバラバラだ。パリに生きる彼らの人生に乾杯したくなった。

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