C・J・チューダー 中谷友紀子・訳『白墨人形』
評者:香山二三郎(コラムニスト)
スティーヴン・キングがお墨付きを
与えた新進気鋭の本格サスペンス
イギリスのミステリー界にはクリスティーやセイヤーズから、P・D・ジェイムズ、ルース・レンデル、ミネット・ウォルターズへと至る燦然たる女流作家の系譜があるが、それに連なる巨星に成長するかもしれない新人の登場である。
もっとも本の帯には「スティーヴン・キング強力推薦!」とあるし、中身も彼の代表作である『IT』や『スタンド・バイ・ミー』を髣髴させる田舎町を舞台にした青春小説調となると、アメリカの作家と勘違いする向きもあるかも。
物語は1986年と2016年の2つの時代を背景に交互に描かれていくが、登場人物は共通している。イギリス南部の田舎町アンダーベリーで暮らす12歳の少年エディ・マンスターは遊び仲間のファット・ギャヴ、メタル・ミッキー、ホッポ、紅一点のニッキーたちと愉快な日々を送っていたが、1986年7月、遊びにいった移動遊園地で事故に遭遇、現場に居合わせた新任教師ハローランとともに大ケガをした少女を救って英雄視される。だがそれはその後の事件の予兆でもあった。
夏休みも終わりに近づいた頃、エディはメタル・ミッキーの兄ショーンとその仲間に襲われ乱暴されたところを、ハローランに助けられる。エディは彼からチョークで描いた人形を仲間同士の合図にする方法を教わるが、新学期が始まって間もなく、ショーンが川で溺死。その夜、エディは彼の亡霊に苛まれる。幽霊が立っていた場所にはチョークマンの絵があった……。
アンダーベリーは一見穏やかそうな街だが、エディの母は医師で中絶手術を行っており、マーティン牧師の嫌がらせを受けるなど不穏な徴候があることも明かされていく。
一方、2016年の章でも、ショーンの死以来仲間と疎遠になり、街を出ていたメタル・ミッキーが帰省。それを契機にこちらでもチョークマン絡みの忌まわしい事件が起きる。今昔を行き来するスタイルはトマス・H・クック調でもあるが、著者はキング顔負けの風俗描写とホラータッチをまじえつつ、各章の結びで読者を宙づりにするクリフハンガーの手法でサスペンスを高めていく。
猟奇事件を描きながら謎解きもしっかりしていて、後味も悪くない。本格推理としても堅固な風格をそなえている。次作は「さらにダークなスーパーナチュラル・スリラー」とのことで、今後はキングのホラー路線を継いでいく可能性もあるけど、ミステリーファンは目を離すな!
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