すっかり衣替えしていた仏「極右政党」の変貌ぶり

トランプ米大統領当選の立役者である究極のポピュリスト、元首席戦略官スティーブ・バノン氏とはいまも連携しているルペン党首(C)AFP=時事

 

 欧州議会選挙が公示された。

 フランスでは比例代表制投票で史上最高の33の政党・グループが候補者リストを提出し、割り当てられた79の議席(前回2014年から5議席増)を争う。各市町村では選挙ポスター掲示スペースが足りず慌てて補充している。

 しかし、世論調査ではエマニュエル・マクロン大統領率いる「共和国前進党」と、1年前に「国民戦線」(FN)から党名を変えたマリーヌ・ルペン党首率いる極右政党「国民連合」(RN)だけが支持率20%超えで、つばぜり合いをつづけている。

 欧州議会は、欧州連合(EU)の機関で、国政における立法府にあたるものではあるが、国会よりも権限は弱い。EUのそれぞれの加盟国が選挙区になり、各国の慣行に従って5月23日から投票が始まり、26日夜に開票される。フランスは、26日投票である。

 前回2014年の選挙では、FN(当時)が第1位の24.86 %の得票をし、74議席中24議席を獲得。その3年後の大統領選挙、それに続く総選挙でのシャルル・ドゴールやジャック・シラク、ニコラ・サルコジ歴代大統領の伝統を受け継ぐ右派政党「UMP」と「社会党」の2大政党の凋落、そしてFNのマリーヌ・ルペン党首の大統領選挙決選残留に結びついた。

封印した「EU離脱」

 FNは、父ジャン=マリーの時代から一貫して「ルペン党首」が比例トップだったが、RNに衣替えした今回、マリーヌ・ルペン党首はリストの78番目である。当選した場合、フランス国内の国会議員との兼任は可能なのだが、どうやらハナから当選する気もないようだ。

 かわってトップになったのは、23歳の党青年部長(ジェネラシオン・ナショナル代表)ジョルダン・バデラ氏で、当選すれば欧州議会最年少議員となる。

 マニフェストを発表した4月15日の欧州議会議場のあるストラスブールでの記者会見では、バデラ氏やRNの所属する欧州政党「国家と自由の欧州」(ENL)の共同代表ニコラ・ベイ氏とルペン党首が演壇に立った。

 マニフェストのタイトルは、「諸国家の欧州のために」、さらに「あたらしいヨーロッパの協力のためのマニフェスト『諸国家の欧州同盟』」というサブタイトルもつけてある。

 前回は、「ブリュッセルにノン、フランスにウィ」「EUは我々を破壊する、国家は我々を守る」と明確に欧州に対決姿勢を示し、場合によっては離脱も辞さないとしていた。

 ところが今回は、このタイトルが示しているように、国家とは別の「欧州」という枠組みの存在をはっきり認めた。

 マニフェストは冒頭で、「EUは欧州に反して行動している」と題し、「約束は守られずスローガンだけになった」「国民とその主権の否定」「欧州の人々を今日および明日の脅威からもはや保護しない組織」「経済破綻」「前例のない社会不安」「国家を武装解除しフランスを弱体化させる官僚支配」そして「ヨーロッパの理想の信用を失わせた」と、EUを厳しく批判する。

 しかしそうは言いながらも、欧州統合の歩みを否定するわけではない。

 EUは六十余年前にローマ条約で描かれた理想を、「裏切った」とする。アメリカのような各州(国)に自主性がある欧州ではなく、ブリュッセルに首都をおく中央集権的な超国家が君臨するようになってしまった。このEUを「各国の市民が安全に、行動を起こす能力、事業を行う能力、繁栄する能力、伝える能力を見つけるべき生きた現実」に改革しようというのである。

「ユーロ脱退」もあっさり引っ込め

 変化の兆候は、2年前の大統領選挙でも見えていた。マスコミでは「反EU勢力」と言われていたが、マニフェストでも集会でもEUからの離脱は言わず、ただ条件が揃えば国民投票に訴える、と後退した。

 ちなみに、なぜ後退かというと、彼女の言う条件も国民投票というアイデアも、英国のデーヴィッド・キャメロン前首相と同じだからである。ただし、キャメロン前首相の思惑は、むしろEUに残留するためだったことは言うまでもない。

 もっと顕著な変化は、ユーロに対する姿勢だ。2014年の選挙では、「ユーロから脱退してフランス・フランに戻す」というのが最大の公約だったが、今回はあっさりと引っ込めた。

 が、批判は変わらない。「スペインやイタリアは300億、4000億ユーロの累積赤字があるにもかかわらず、ドイツは1兆ユーロの貿易黒字を蓄積している」「現在の欧州中央銀行は公共の利益を無視して貨幣の安定とインフレ対策しかせず、EU域内に大きなアンバランスをつくり、18カ国のほとんどを犠牲にしてドイツやオランダを利している」「欧州経済の内部対立、貿易赤字と黒字の拡大に貢献し、欧州の協力そのものの存在を危機に陥れた」等々……。

 しかし、ここでもまたEUそのものと同じように、統一通貨そのものが悪いのではなく、欧州中央銀行のマネー原理主義が「裏切った」のだと言う。そして、「ヨーロッパの財務的自立を確保することは急務である」「ユーロは国民経済の便益のためにならなければならない」と、離脱ではなく改革を求める。

 じつは、マリーヌの父ジャン=マリーが党首だった1980年代にも、「諸国家の欧州」を唱えていた。ただし、あのときの「国家」は「patrie」であった。「愛国者」と言うときの「国」で、愛国勢力を結集するという意味である。

 今回の「国家」は「nation」で、「国」という意味と「国民」という意味がある。つまり、「諸国家の欧州」は、同時に「諸国民の欧州」である。愛国主義の定番のギリシャ・ローマの伝統も惹起するが、それよりも、欧州は民主主義を、国民国家を生み出したというところに力点が置かれている。反イスラム、移民排斥も、欧州はキリスト教文明だからというのではなく、イスラムが非宗教性、多様性を尊重せず、女性の人権も認めないからだと、もっと大きな普遍性を理由にしている。

「自由交易」にかわる「正しい交易」を

 RNは、今回の欧州選挙は欧州の建設というものがどういう形を持つべきかを決定する選挙、「根本的な思想的対決」であると言う。

 対決の相手は、マクロン大統領に代表されるエリートの欧州である。それは「大陸の地理的境界を越えて拡大することを意図した、無限の大きな市場という金儲け主義」であり、そこに欧州の連帯はなく、唯一の連帯は「全員に課された自由主義の規則を破って、2008年に銀行を破産から救済するために何十億ユーロもつかわれた」ことだけである。

 マニフェストはさらにこう言う。「欧州のエリートは、ヨーロッパを架空のグローバル市場に差し出した」。そして、その市場の中では人々にはまったく無関係で何も分け与えず、「国家や多国籍企業があらゆる手段を使って自分たちの権力の利益を優先する」。

 今回のRNの選挙スローガンは、「人々に権力を与えよう」である。この欧州を市民の手に奪い返そうというのだ。

 具体的には、現在の欧州はブリュッセルの本部が各国を支配している。しかもそれを動かしている欧州委員会は選挙を経ておらず、民主主義的正統性がない。そして経済優先で、政治は置き去りにされている。

 これを、市民の選挙でえらばれる欧州議会と、やはり国民国家の代表である諸国の政府首脳同士の会議(EU理事会)を「意思決定機関」とし、逆に欧州委員会は、「意思決定の役割を持たない単なる行政事務局」に縮小する、という主張だ。

 そして、「グローバリズム」に対抗して「ローカリズム」を主張する。現在EU自体が原則としながら守っていない補完性原則にのっとって、国家でできることは国家レベルで行い、EUは、欧州という単位で行うにふさわしいことと権限を明確に分けるべきだとする。

 経済においても、国際的大企業と金融が支配する「タダ働きさせ、環境労務の基準もないような国」での生産は正当な競争行動とは言えないとして、「自由交易」にかわる「正しい交易」を唱える。銀行、および金融市場への依存や、ドルへの従属を減らし、外部の力から隔離された支払いシステムを作る。さらに、地域金融など身近なものを復活させる。「エコロジー文化を生み、持続的にフランスを保存するための、真の近隣性の革命を起こす」と言う。

「反移民」だけではない支持理由

 じつは、ルペン党首らが唱える「欧州を裏切ったEU」対「市民のEU」という主張は、フランスではかなり以前から言われていたことである。それがとくに顕著に表れたのが、2005年の欧州憲法制定に関する国民投票であった。

 国民投票の前(2004年10月)、「欧州を建設するために、憲法条約に『ノン』と言おう」というアピールが出た。それは、次のように始まる。

「新自由主義のグローバリゼーションと汎国籍企業を前にして、我々には欧州が必要である。しかし、今日つくられている欧州は我々が必要としているものではない」

 RNの現在の主張とまったく一緒だが、このアピールを出したのは、「別のグローバリゼーション」を提唱する左翼、極左、急進エコロジスト、女性解放運動家で、まったくRNとは対極にある勢力である。

 仏経済紙『レゼコー』(2019年4月16日)は、RNが今回、ユーロ離脱を放棄したことの理由を、「2017年の(大統領選の)失敗、ユーロの撤退を明確に説明することの難しさ、この提案が最も資産を持ち選挙民の中で重みをもっている年金受給者の間で引き起こされた危惧、そして党が高学歴者と高所得者をひきつけることができないこと」と分析する。

 たしかにルペン党首は、前回の欧州選挙と2年前の大統領選挙で、フランス人のユーロに対する愛着の強さを肌身に染みて感じた。そしてこの党は、選挙の失敗などからすぐに教訓を引き出して、主張も政策もコロコロ変える。選挙民におもねっていると言えばそれまでだが、たとえそうであったとしても、ここには、とても大きな世の中の動きが映し出されている。

 RNのマニフェストは、「欧州の権力がこれほど市民から遠く離れたことはないように見える。かつて2005年のフランスおよびオランダ、あるいは2008年のアイルランドの国民投票のように、正当な国民投票が軽蔑され踏みにじられたことはない」と言う。

 これは、確かに現実におきたことである。フランスやオランダだけではなく、他の国でもEU統合について国民投票をしていたら、ほとんど否決されたであろうとも言われる。それをリスボン条約で、ほぼ否決された形で、いわば裏口から成立させてできているのが現在のEUである。

 あれから12年、「別の欧州」には民衆の切実な要求がある。左の勢力が低迷する中で、右からの「諸国家(国民)の欧州」が「別の欧州」の主役になった。各国で極右勢力が伸長している理由は「反移民」だけではない。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
広岡裕児 1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)、『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの―』(新潮選書)ほか。
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