「巨額赤字」続出は序の口これから始まる「リストラ」「給与削減」「倒産」

執筆者:磯山友幸 2020年8月6日
タグ: 新型コロナ
エリア: アジア
2020年度第1四半期決算発表記者会見をオンラインでおこなった日産自動車。最終赤字は2855億円だった (日産自動車HPより)

 

 新型コロナウイルスの蔓延に伴う企業業績への影響がいよいよ表面化し始めた。発表が相次いでいる上場企業の4-6月期の四半期決算では、巨額の赤字に転落するところが続出している。

インバウンド消費が「消滅」

 最終赤字額は、日産自動車2855億円、三菱自動車工業1761億円、東日本旅客鉄道(JR東日本)1553億円、ANAホールディングス1088億円、三越伊勢丹ホールディングス305億円――など。いずれも四半期決算としては過去にないほどの巨額赤字だ。

 SMBC日興証券の集計によると、7月30日までに明らかになった東証1部の3月期決算企業256社の4-6月期決算は、28%に当たる71社が赤字に転落した。最終損益合計は3783億円の黒字だが、このうち金融業が3499億円を占めており、非製造業は627億円の赤字。製造業も911億円の黒字にとどまった。まだこの段階での発表は全体の17.5%に過ぎず、今後、さらに赤字企業の数が膨らむことは間違いない。

 新型コロナで緊急事態宣言が出され、外出自粛などが求められた4~5月の状況は、企業業績に未曾有の打撃を与えた。ANAや日本航空など航空会社は9割の定期便が運休を余儀なくされたほか、鉄道各社の利用客も激減した。JR東日本の場合、3カ月間の運輸事業収入が、前年同期の5058億円から3000億円近く減少、2087億円となり、1629億円の営業赤字を出した。

 店舗を閉めざるを得なかった小売業も大打撃を受けた。三越伊勢丹ホールディングスの3カ月間の売上高は1316億円と53%減少した。海外から日本を訪れる旅行客が4月、5月、6月と3カ月続けて前年同月比99.9%減となり、いわゆるインバウンド消費が「消滅」。利益を稼ぎ出していた化粧品や、高級時計などの貴金属、高級ブランド品などの売り上げが激減した。

 さらに深刻なのが外食チェーン企業。日本フードサービス協会の調べでは、売上高は4月39.6%減、5月32.2%減、6月21.9%減と推移した。

 ファーストフードは比較的落ち込みが小さかったものの、「パブレストラン/居酒屋」業態では、4月91.4%減、5月90.0%減、6月60.1%減と落ち込みが大きい。

 吉野家ホールディングスの3-5月期決算は売上高が24.8%減となり、最終損益は40億8700万円の赤字に転落した。

深刻なのはむしろこれから

 「(2度の補正予算による)事業規模230兆円、GDP(国内総生産)の4割に上る、世界最大の対策によって雇用と暮らし、そして、日本経済を守り抜いていく」

 安倍晋三首相は6月18日の記者会見で、こう述べ、万全の経済対策を用意したと胸を張った。

 内閣府は7月30日に経済見通しを見直し、2020年度のGDPはマイナス4.5%となるという試算を発表した。5%の落ち込みに対して、40%相当の経済対策を打つのだから、落ち込みはカバーできると言いたいのだろう。

 確かに、マクロの机上の計算ではそうかもしれない。だが、現実の民間の企業経営はそうはいかない。政府が予算を立てても、実際にはそのお金が民間に回っていくには時間がかかり、収入の落ち込みをカバーすることは不可能だからだ。

 国民の批判を浴びた末に、右往左往した「Go Toトラベル」キャンペーンを見ても分かる。本来は新型コロナ収束後の需要喚起策として計画されたはずだったが、旅行業界の悲鳴を受けて実施に踏み切った。だが、新型コロナの蔓延が再燃したことで、旅行にブレーキがかかっており、思うようにお金が企業に回っていかない。キャンペーンで旅行を推奨しながら直後に他府県への移動や帰省の自粛を求めるなど、政府のあまりに無計画な矛盾したやり方に批判も集中した。

 深刻なのはむしろこれからだ。4-6月期は店舗を休みにした企業も多く、水道光熱費や仕入れなどが激減したところが少なくない。また、従業員の一部を休業させることで「雇用調整助成金」を受けることもできたので、収入は激減しても、経費も圧縮できていた。
ところが6月以降、営業を再開すれば、固定的な経費は一気に元に戻ることになる。にもかかわらず、売上高はそう簡単には元に戻りそうにないのだ。

 仮に新型コロナ前の8割の売り上げに戻るのがせいぜいとなれば、企業経営者はその売り上げを前提に、固定費の圧縮に動く。外食チェーンでは店舗の閉鎖が始まっているが、今後、大手企業でも人件費の圧縮などが始まることになりそうだ。

 第1四半期の決算がまとまったばかりの現状では、通期の見通しを立てられない企業も少なくない。売り上げが急速に戻るのか、新型コロナの蔓延再発で再び「緊急事態宣言」が出され、売り上げが激減するのか。読みきれないわけだ。

 9月中間決算が発表される10月後半の段階で、赤字がさらに拡大していれば、通年での巨額赤字が確定的になり、企業の多くは年末の賞与を大きく減らすなど対応せざるを得なくなる。もしかすると、人員削減、つまりリストラに踏み切るところも出てくるかもしれない。

「現状を守る」より「必要な企業」に支援を

 7月31日に発表された6月の労働力調査によると、就業者数が前年同月比1.1%減少、雇用者数も1.6%減った。いずれも大きな減少といえるが、正規雇用の従業員は0.8%増とむしろ増えている。それでも全体でマイナスなのは、非正規雇用が4.8%減と大きく減ったためだ。非正規は1年前に比べて104万人も減っているのだ。

 4月以降、パートやアルバイトを切る動きが広がっているが、6月になってもこの傾向は続いている。だが、正社員の本格的な人員削減には手を付けていない、というのが現状である。

 政府は雇用調整助成金制度の拡充などで「企業に解雇させない」政策を打ち続けてきた。しかし、企業の巨額赤字が鮮明になり、短期間に収束しないという見通しが強まれば、前述のように企業は固定費削減に動き出す。そうなると正規の雇用者が減ってくることになる。

 賞与が減ったりリストラが始まったりすれば、家計が消費を一気に引き締めることになるだろう。2019年10月の消費税率引き上げもあり、そうでなくても低迷していた国内消費の底が抜けることになりかねない。そうなれば、消費の減少がさらに企業業績を悪化させるデフレスパイラルに再び陥ることになる。

 帝国データバンクによれば、新型コロナ関連の倒産(法的整理や事業停止)は7月31日現在で393件。業種では飲食店が54件と最も多く、次いで「ホテル・旅館」46件、「アパレル・雑貨小売店」25件などとなっている。

 今後、売り上げが戻らなければ、一気に倒産が増えてくる可能性が高い。いずれにせよ、現状はまだまだ序の口ということだろう。

 四半期決算で利益を下支えしたのは「金融業」だった。未曾有のカネあまりと低金利で収益機会がなくなっていた銀行などにとって、新型コロナ禍は事業環境を180度逆転させるきっかけになった。巨額の営業赤字による手元資金のショートを恐れて、企業が多額の借り入れやコミットメントライン(融資枠)の設定に動いたことが背景にある。

 だが、問題は、今後、銀行の融資先が新型コロナの影響で経営破綻するなど、融資回収に不安が出てくることだろう。企業の破綻が貸し倒れなどによる金融不安につながることになれば、まさに「新型コロナ恐慌」へと転落していくことになる。その負の連鎖をどう止めていくのか。

 新型コロナ感染者が再び急増していることで、短期間のうちに経済活動が元に戻る、という期待は外れた。安倍首相が「GDPの4割」と胸を張る経済対策の多くは、従来の産業構造を前提に、新型コロナ前に戻すための施策と見ていい。だから、従来の企業に人を抱え続けさせることを支援する雇用調整助成金が政策の中心になるのだ。

 だが、新型コロナによって人々の生活スタイルや働き方が一気に変わりつつある。「ポスト・コロナ」の時代の産業構造は大きく変わっていく可能性が高い。

 ポスト・コロナ時代に求められる事業を提供する企業は、今後も大きく伸びていく。企業自身も大きく業態やサービスを転換して生き残りをかけていくことになる。

 政府は「現状を守る」政策よりも、新しい産業構造に変えていくため、今後必要になる企業を支援していく政策に大きく舵を切るべきだろう。
 

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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