嵐の前の静けさ?:終結の見通しの見えないロシア・ウクライナ戦争

執筆者:高橋杉雄 2023年1月2日
エリア: ヨーロッパ
電力施設の破壊が冬を迎えた市民生活に及ぼしているダメージは極めて大きい[ロシアのミサイル攻撃で切断された高圧送電線を修理する作業員=2022年12月7日、オデーサ近郊](C)AFP=時事
ウクライナの反攻が秋以降の大地の泥濘化で中断される一方、ロシアは動員兵の訓練と戦力化を進めつつ、電力施設への空爆でウクライナにダメージを与えている。現在の戦況はウクライナにとって必ずしも好ましいとは言えない均衡にある。泥濘が終わる春季、両国の攻勢はどのような形になると想定できるか。そして2023年の展望は――。

   2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して始まったロシア・ウクライナ戦争は、開戦から10カ月を経たが、終結の気配を全く見せることなく、2023年を迎えることとなった。特に、夏から秋にかけて行われたウクライナの大規模反攻が一段落してからは、天候の影響も受けて戦線が膠着した。最前線では戦線が膠着する一方で、ロシアによる電力施設への大規模な空爆が行われ、またウォロディミル・ゼレンスキー大統領の電撃的な米国訪問といった外交的な展開もあった。2022年終盤を振り返りながら、2023年の展望を論じてみる。

最前線の膠着と地球温暖化の影響

   2022年の夏から秋にかけてのウクライナの反攻は世界を驚かせた。特に、南部へルソン地方にロシアの関心を引きつけておいての北部ハルキウ方面からの反攻(第2次ハルキウ反攻)は見事な成功を収め、ウクライナはハルキウ州の奪回に成功した。それに続いて南部ヘルソン地方でのロシア軍に対する圧力を強め、11月上旬にはヘルソン州の州都ヘルソンを含むドニプロ川西岸地方の奪回に成功した。

   一方で、ロシア軍はドネツク州北部のバフムトに対する攻勢を継続している。ロシア側は9月下旬に招集を開始した動員兵を多数投入しているが、ウクライナ側も堅固な陣地を構築して迎え撃っており、壮絶な消耗戦になっている。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
高橋杉雄(たかはしすぎお) 1972年生まれ。防衛省防衛研究所防衛政策研究室長。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、ジョージワシントン大学コロンビアンスクール修士課程修了。専門は現代軍事戦略論、日米関係。著書に『現代戦略論―大国間競争時代の安全保障』(並木書房)、『日本人が知っておくべき 自衛隊と国防のこと』(辰巳出版)、『日本で軍事を語るということ 軍事分析入門』(中央公論新社)、共著に『「核の忘却」の終わり: 核兵器復権の時代』(勁草書房)、『新たなミサイル軍拡競争と日本の防衛』(並木書房)、『ウクライナ戦争と激変する国際秩序』(並木書房)、『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか デジタル時代の総力戦』(文春新書)など。
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