
極めて人間的な会話が可能な生成AIチャットボット(人工知能による自動会話プログラム)であるChatGPTが大きな話題になっている。対話の質が格段に向上し、従来の人工知能と比較して異次元の進歩を遂げたことが、どのユーザーにも実感できるレベルに達したからだ。
このブレークスルーにより、生成AIが停滞気味のテクノロジー業界にとって新たな起爆剤になると期待されている。しかし、メディアで報じられるAIに関する壮大な物語は虚実入り交じっている。AI進化の背景にある設計思想、目的、方向性について深掘りした解説が少ないからだ。
本稿では、ChatGPTをはじめとするAIについて米識者の分析をまとめ、等身大の人工知能の現在と未来を読み解いてゆく。
AIは「2030年に2兆円規模」の経済効果?
実際にChatGPTを使ったユーザーが一様に驚くのが、人間が発するあいまいな質問や命令をかなり正確に理解し、機械が生成したとは思えない自然な回答を寄こすことだ。柔軟性や「博識さ」が、従来型の音声対話AIであるアップルのSiriやアマゾンのAlexa、グーグルのGoogle Assistantなどとは格段に違うのである。
たとえば、会話の文脈や前提条件を維持しながら、「大阪弁でしゃべって!」「文末に『ンゴ』をつけて答えて」などという突然のムチャ振りにも難なく対応。物事に対する感想や情緒的な意見さえ、立て板に水を流す如く表明できる。
加えて、人間の言語でプログラミングの命令を与えると、特定の開発言語の文字列であるソースコードまで出力してくれる優れモノだ。人間が書いたコードの解説や修正までこなすことも、クオリティの高さの証左として世間に印象付けられた。毎日のニュースでChatGPTの話題を見ない日はない。
米国を挙げての生成AIブームの中、金融大手バンク・オブ・アメリカは2月28日付の投資家向け分析で、「AIは2030年に世界経済に対して年間157億ドル(約2兆1040億円)規模の貢献をするようになる。その理由は、①データの民主化、②前例のない大規模の普及、③ワープスピードの技術の進歩、そして④商業ベースの使用の激増だ」と予想した。
また、投資顧問大手のバーンスタイン・リサーチは同日、「AIデータ処理サーバー向けの半導体需要が年間数十億ドル規模に達する可能性がある」との見方を示した。コロナ禍に支えられた半導体特需が落ち込みを見せる中、次のメシの種の出現はIT業界にとって旱天の慈雨となり得る。
米テック大手においてもAI開発が切迫感をもって進められている。ChatGPTを自社の検索エンジンに組み込んだマイクロソフトは2019年と2021年に続き、OpenAIに対し複数年にわたって100億ドル(約1兆3400億円)を追加投資する計画を発表。グーグルも自社検索エンジンに統合を計画している生成AIのBardの開発を加速させ、メタはAIを同社のソーシャルメディアやメッセージングアプリであるWhatsApp、Messenger、Instagram に組み込むプロジェクトに、「トップレベルのチーム」を従事させる。
大規模言語モデルでは「真実の情報」は見つけにくい
大規模言語モデル(LLM)で構築されたChatGPTは、人間が書いたインターネット上の文書や会話のビッグデータを、人間反応の強化学習(RLHF)という方法でAIが学習し、人と実際にコミュニケーションしているかのように対話ができる設計だ。
つまりChatGPTは、統計や数値に基づいて訓練されている知識モデル型のAI(後ほど詳しく説明)とは違い、……

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