
中国を代表する巨大テック企業であるアリババグループがEコマース、クラウド、物流、エンターテインメントなど事業分野別に6社に分社化する、と発表した。アリババと表裏一体だったアリペイなど金融事業を運営するアントグループは、すでに創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が議決権株式を手放し、アントに対するアリババの影響力は薄れている。中国人、中国企業を広く支えてきたプラットフォームは、第3期目に突入した習近平政権によって事実上、解体される。
中国共産党と距離を置き、民間企業に成長空間をもたらし、若者に仕事と希望を与えたアリババの落日は「成功すれば潰される」という教訓を意欲のある中国の企業家や中国との連携を目指す外資に与え、中国のテック企業全体の活力が低下するきっかけとなるだろう。
アリババに事業分割はマイナスしかない
アリババグループの分社化発表は投資家には歓迎され、香港やニューヨーク上場のアリババ株は発表直後に急騰した。創業者の馬氏の経営からの排除など習政権から強い圧迫を受けてきたアリババが政権と折り合いを付け、成長軌道に戻るとの期待が盛り上がったからだ。中国を1年以上離れ、日本など海外に長期滞在していた馬氏が浙江省の学校に突然、姿を現して中国メディアに登場したことも「アリババが最悪期を脱した」との印象を広げた。
では、アリババの6分割はグループ全体の成長にプラスになるのだろうか?
かつての日立製作所や東芝、松下電器産業(現パナソニック)のように関連性の薄い事業、成長力の衰えた事業を多数抱え込み、企業全体の収益性が上がらず、企業価値が事業部門価値の総和を下回る「コングロマリット・ディスカウント」に陥っている企業なら今回のような分割、分社化は大きな効果を生むだろう。事業ごとに成長戦略を組み直し、新規投資や事業売却の自由度を高め、経営スピードを高められるからだ。
だが、アリババが分割する6事業はそのような状況にはない。……

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