アリババ6分割が示す「知りすぎた」中国テック企業の落日

執筆者:後藤康浩 2023年4月10日
タグ: 中国 習近平
エリア: アジア
事業再編の発表でアリババ株が急伸、中国テック株に幅広い買いが入った[2023年3月29日の香港株式相場を示すスクリーン](C)EPA=時事
3月28日に発表されたアリババグループの事業6分割を、株式市場はひとまず好意的に受け止めた。だが、事業分野間の連携で価値を生み出してきたアリババに「コングロマリット・ディスカウント」は当てはまらない。背景には、膨大な個人情報を握る民間テック企業への管理強化で国家主導の先端技術開発を進める3期目習近平体制の方針がある。

 中国を代表する巨大テック企業であるアリババグループがEコマース、クラウド、物流、エンターテインメントなど事業分野別に6社に分社化する、と発表した。アリババと表裏一体だったアリペイなど金融事業を運営するアントグループは、すでに創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が議決権株式を手放し、アントに対するアリババの影響力は薄れている。中国人、中国企業を広く支えてきたプラットフォームは、第3期目に突入した習近平政権によって事実上、解体される。

   中国共産党と距離を置き、民間企業に成長空間をもたらし、若者に仕事と希望を与えたアリババの落日は「成功すれば潰される」という教訓を意欲のある中国の企業家や中国との連携を目指す外資に与え、中国のテック企業全体の活力が低下するきっかけとなるだろう。

アリババに事業分割はマイナスしかない

 アリババグループの分社化発表は投資家には歓迎され、香港やニューヨーク上場のアリババ株は発表直後に急騰した。創業者の馬氏の経営からの排除など習政権から強い圧迫を受けてきたアリババが政権と折り合いを付け、成長軌道に戻るとの期待が盛り上がったからだ。中国を1年以上離れ、日本など海外に長期滞在していた馬氏が浙江省の学校に突然、姿を現して中国メディアに登場したことも「アリババが最悪期を脱した」との印象を広げた。

 では、アリババの6分割はグループ全体の成長にプラスになるのだろうか?

 かつての日立製作所や東芝、松下電器産業(現パナソニック)のように関連性の薄い事業、成長力の衰えた事業を多数抱え込み、企業全体の収益性が上がらず、企業価値が事業部門価値の総和を下回る「コングロマリット・ディスカウント」に陥っている企業なら今回のような分割、分社化は大きな効果を生むだろう。事業ごとに成長戦略を組み直し、新規投資や事業売却の自由度を高め、経営スピードを高められるからだ。

 だが、アリババが分割する6事業はそのような状況にはない。……

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カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
後藤康浩(ごとうやすひろ) 亜細亜大学都市創造学部教授、元日本経済新聞論説委員・編集委員。 1958年福岡県生まれ。早稲田大政経学部卒、豪ボンド大MBA修了。1984年日経新聞入社。社会部、国際部、バーレーン支局、欧州総局(ロンドン)駐在、東京本社産業部、中国総局(北京)駐在などを経て、産業部編集委員、論説委員、アジア部長、編集委員などを歴任。2016年4月から現職。産業政策、モノづくり、アジア経済、資源エネルギー問題などを専門とし、大学で教鞭を執る傍ら、テレビ東京系列『未来世紀ジパング』などにも出演していた。現在も幅広いメディアで講演や執筆活動を行うほか、企業の社外取締役なども務めている。著書に『アジア都市の成長戦略』(2018年度「岡倉天心記念賞」受賞/慶應義塾大学出版会)、『ネクスト・アジア』(日本経済新聞出版)、『資源・食糧・エネルギーが変える世界』(日本経済新聞出版)、『アジア力』(日本経済新聞出版)、『強い工場』(日経BP)、『勝つ工場』(日本経済新聞出版)などがある。
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