
「リーマンブラザーズがリーマンシスターズであったら、(リーマンショックから始まった)グローバル金融危機は起こらなかっただろう」――クリスティーヌ・ラガルドECB(欧州中央銀行)総裁のIMF(国際通貨基金)専務理事時代の発言であり、経済界での女性の登用を促す名言として広く知られている。
そしてまさしく「リーマンシスターズの時代」が実現した今、米国のシリコンバレーバンク破綻に端を発した金融不安が、欧州最大級の銀行クレディ・スイスのUBSによる吸収合併に繋がり、グローバル金融危機の再来が云々される事態になった。本稿では国際金融界が「女性主導」になった経緯を振り返り、今後を展望する。
金融史上に名を残す人材
ラガルドの発言が引き金となったかのように、その後の国際金融界には続々と女性のトップが誕生した。しかもそのいずれもが、金融史上に名を残すような稀有な人材であった。
■ラガルドECB総裁
「リーマンシスターズ」発言の当事者、ラガルド自身がそうした人材の筆頭であろう。彼女はフランス出身だが弁護士としてアメリカの法曹界で頭角を現した後政界に転じ、フランス初の女性財務大臣からIMF初の女性専務理事を経て、ECB初の女性総裁という華麗なキャリアを歩んできた。
IMFはIMF融資という強力な実弾によって特に途上国の経済運営に絶大な影響力を持ち、ある意味で国連を上回る存在感を持つ国際金融機関である。一方、ECBは国際機関であると同時に20カ国の金融政策を統括する中央銀行でもあり、その総裁はヨーロッパ最高の権力者ともいわれている。その双方のトップを経験したラガルドは史上最強の国際官僚といっても過言でないだろう。
■イエレン米国財務長官とブレイナード米NEC委員長
そのラガルドに勝るとも劣らない経歴を誇るのが、世界最大の経済大国米国で、CEA(大統領経済諮問委員会)委員長、中央銀行のFRB(連邦準備制度理事会)議長、さらに現在の財務長官という経済関係の最も重要な3ポストに就いたジャネット・イエレンだ。この3ポストを全て経験したのは彼女が初めてである。FRBのジェローム・パウエル現議長(男性)もイエレンが議長時代の理事であり、金融政策にも強い影響力を持つであろう彼女は、……

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。