【Analysis】高度成長期のインドで女性の離職が進む理由

2023年4月16日
エリア: アジア
インド、ジャリア炭田で石炭積み込み作業員として働く女性たち[インド東部ジャールカンド州=2022年11月10日](C)Reuters/Tanmoy Bhaduri
巨大な生産年齢人口を抱えるインドがそのボーナスを生かすには、単に雇用を増やすだけでなく、女性の労働参加が不可欠だ。だが現実には、女性の就業率はむしろ低下傾向にある。インド女性の多くが従事する低技能労働を直撃した新型コロナが直近の要因として挙げられるが、さらに根幹には、女性の仕事が賃金労働の形をとらない労働市場のジェンダー問題が横たわる。

[ニューデリー発(トムソン・ロイター財団)]30代でヒンディー語と英語の修士号を持つ教師、ピンキー・ネギは、以前勤めていたヒマラヤの麓にある公立学校での仕事を気に入っていた。しかし、彼女は毎年何百万人ものインド人女性がそうしているように、結婚して子供ができるとキャリアを諦めた。

「自分の手で稼いでいないことが一番苦しく感じるのは、些細なことでも人に頼らなければならない時だ」とネギは言う。彼女は一時、家庭教師をやってみたこともあるが、第2子の出産を機に仕事を完全に断念した。

「たとえ相手が夫だとしても、誰かに頼むことに変わりはない」。彼女は女性の就職を支援する組合団体「自営業女性協会」(SEWA)の事務所で、ニューデリーのトムソン・ロイター財団に語った。

 ネギの体験は珍しくない。アジア第3位の経済大国であるインドでは、高度成長期にもかかわらず、女性の離職が進んでいる。

 国連は、インドの人口が4月14日に14億3000万人に達し、中国を抜いて世界で最も人口の多い国になると予測している。エコノミストたちは、「生産年齢人口が最も多いインドは、世界最高水準の成長を維持するために、雇用を増やすだけでなく、女性に有利な雇用条件を整備する必要がある」と指摘する。だが、教育水準の向上、健康状態の改善、出生率の低下など、女性に向けた労働政策の採用にもかかわらず、働いている、あるいは積極的に仕事を求めているのは、インド人女性の3分の1以下だ。

 研究者によれば、結婚、育児、家事労働からスキルや教育の格差、世帯収入の増加、安全への懸念、仕事不足まで、就職しない理由は多岐にわたる。コンサルティング会社マッキンゼーは2018年の報告書で、教育、育児、柔軟な仕事環境へのアクセス改善など、こうした問題を是正できるような政策変更によって働く女性の数が増えれば、2025年までにインドの国内総生産(GDP)を数千億ドル上乗せできると分析する。

 またNGOオックスファム・インターナショナルのインド支部、オックスファム・インドのマユラクシ・ドゥッタ研究員は2022年の報告書で、「労働市場での女性不在は、生産性を低下させ所得格差につながる」と指摘。女性の労働参加が少ないのは、賃金や機会の面で性差別があるためだとしている。

女性の仕事は統計データ上でも過小評価?

 世界銀行の最新データによると、2021年のインドの正規・非正規労働者に占める女性の割合は23%で、2005年の27%近くから減少している。隣国のバングラデシュは約32%、スリランカは34.5%だった。

 だが一方で、インド政府のデータでは、女性の労働力率(FLFPR)は2018~19年の18.6%から20~21年の25.1%に上昇している。

 今年初めに行われたある経済調査は、家庭の運営や農業、薪集めや料理、子供への教育など、給与が支払われない仕事がデータに反映されていないため、現在の統計ツールはFLFPRを正確に把握できず、働く女性の割合が過小評価される傾向があると指摘した。インドの労働省および女性子ども開発省はコメントの要請に応じていない

「女性は家庭を守らなければならず、フルタイムの仕事を見つけるのは難しい。(家族の)サポートがあれば私も働きたかった」(パートタイムで在宅の針仕事をしている35歳のビーナ・トマール)。国際労働機関(ILO)のジェンダー専門家である松浦彩と労働統計学者であるピーター・ブウェンボは、「家事や育児、介護などのケアエコノミーへの投資により、無報酬のケア負担を軽減し、女性の雇用の主要分野であるケアセクターでの雇用を創出できる」と述べている。……

カテゴリ: 社会 経済・ビジネス
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