【Foresightインタビュー】中国は半導体の最先端に追いつくか、TSMCの覇権は続くのか:クリス・ミラー(タフツ大学フレッチャー法律外交大学院国際歴史学准教授)

執筆者:長野 光 2023年4月17日
エリア: アジア 北米
台湾にとって半導体産業は中国から自らを守る「シリコンの盾」になり得るのか。一方の中国は、西側経済とのデカップリングの潮流の中で独自の最先端半導体サプライチェーンを築けるのか。安全保障にも深く関わる半導体産業をめぐる各国の動きとその評価について、近著『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(ダイヤモンド社)が話題のクリス・ミラー氏に独自インタビューを行った。(聞き手:長野 光 ビデオジャーナリスト)

   今月3日、経済産業省は国内の半導体産業の売り上げを、2030年に現在のおよそ3倍にあたる15兆円に拡大するという目標を発表した。背景には、国内8社の出資で設立した半導体製造企業ラピダスや、台湾積体電路製造(TSMC)熊本工場の稼働による、国内の半導体産業拡大への期待がある。

   米国では、昨年8月に半導体の生産や研究開発に巨額の補助金を投じる、予算総額2800億ドル(約36兆9544億円)の「CHIPS・科学法」が成立した。一方で、先月21日に米商務省が補助金を受け取る企業の審査プロセスに「国家安全保障条項(ガードレール条項)」を追加し、中国、ロシア、イラン、北朝鮮で共同研究や生産の拡大を行う企業に規制の網をかけている。

「指導者は時として経済的繁栄より印象を取る」

――『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』では、蔡英文総統が台湾の半導体産業は「世界的なサプライ・チェーンを破壊しようとする独裁政権の攻撃的な試みから台湾を守る『シリコンの盾』である」と発言したことを、「ひどく楽観的な認識」と評しています。TSMCを中心とした台湾の半導体産業の地政学的リスクをどう見ていますか?

「台湾政府は、台湾の半導体産業が安全保障に貢献すると考えている。経済に大きく影響するので、中国は台湾を攻撃などできないだろう、という考え方だ」

「たしかに中国が台湾に武力侵攻すれば世界経済は打撃を受ける。また、中国は台湾の半導体の最大の輸出先でもある。しかし、歴史を見ると、そのような経済的な結びつきを破壊して戦争した例はたくさんある。そのため、半導体産業があるから台湾を中国の攻撃から守れるという考えには不安を覚えずにはいられない」

「中国政府は何度も武力行使を辞さない姿勢を強調してきた。そして、必要な軍事力を構築する努力も重ねてきた。中国がGDP(国内総生産)や株式市場よりも、国力、プライド、地位といったものを重んじる可能性はある。指導者は時として経済的繁栄より印象を取るものだ」

――台湾政府は半導体産業を対中外交の切り札や安全保障の武器として実際に使っていますか?

「台湾政府は半導体産業を政治的な武器にすることを避けてきた。しかし、この5年あまりは、米政府が台湾政府に対して、半導体産業を政治的に利用することを促してきた。特に米政府が求めるのは、TSMCなどが半導体製品を中国の通信大手ファーウェイなどに販売しないようにすることだ」

「今、ファーウェイに対して、台湾の半導体製品の一部は販売が禁止されている。2020年まではファーウェイはTSMCの2番目に大きな顧客だったが、米政府が規制の形を変えたことにより、TSMCはファーウェイを販売先として切ることになった」

――半導体には多様なハイテク部品が使用されており、複数の国で水平分業しているため、一国だけで生産を完結することは多くの国にとってまだ現実的ではありません。「中国でさえ、多国籍サプライチェーン抜きで半導体を生産することはできないし、そのような不可能なことを狙っていない」と書かれています。それでは、中国は半導体の国際的なマーケットの中で、どのようなポジションを確立したいと考えているのでしょうか?

「中国の半導体に関する政策を理解するためには、企業と政府を分けて考える必要がある。中国政府は国内に最先端の技術を持ちたい。しかし、中国の半導体企業の多くは民間企業で、稼ぐことに必死だ。そして、中国の半導体企業は、自分たちが最先端の半導体分野で稼げないのは、必要な技術を持っていないからだと感じている」

「中国企業は半導体生産設備の導入の点でかなり遅れている。その遅れた設備で半導体のデザインをしたり、複製品を生産してなんとかビジネスを成り立たせているが、問題の解決にはなっていない。中国の指導層が求める結果が出せないのは、政府と企業の間に認識のズレがあるからだ」

オープンソースの恩恵を受けられない中国

――中国の半導体産業はいつ世界最先端に追いつくでしょうか?

「今日の我々の技術レベルを基準にするなら、中国は10年後にはこれに追いついているだろう。しかし、……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
長野 光(ながのひかる) 高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。
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