それでも「ラピダス」が生かさねばならない「東芝」「TSMC日本進出」の苦い教訓

執筆者:町田徹 2022年12月30日
エリア: アジア
いまラピダスには東会長と小池社長の仲間10人ほどが入社の準備中だという[米IBMとの提携を発表した(左から)東哲郎会長、小池淳義社長、IBMのダリオ・ギル上級副社長ら=12月13日](C)時事
日の丸半導体「ラピダス」を国策支援の「失敗の歴史」から解き放てるか。山積みの課題を抱えた船出だが、一方で半導体サプライチェーンの重要性が各段に増していることは間違いない。米国の対日姿勢の変化という追い風も吹く中、踏まえるべきは東芝救済の試みとTSMC日本進出の際に得られたあまりにも苦い教訓だ。

「やっと、日本の企業経営者たちも半導体サプライチェーンの重要性に気付き始めたことが大きかった。国産化の道程はまだ長いが、以前と比べれば、隔世の感がある」――。

 12月半ばのこと。数年来の動きを知る政府・経済産業省幹部(以下、A氏とする)が筆者の取材に重い口を開いた。最先端の2ナノ半導体の国産化を目指す国策会社「ラピダス(Rapidus)」こそが、諦めずに模索してきた日本の半導体産業を復活させるプロジェクトの出発点になるというのである。

 実は、A氏はかつて、断末魔に喘ぐ東芝の半導体部門の救済を政治的に要求され、財界の助力を得るべく奔走した。しかし、名立たる人士を訪ねたものの、その誰一人、首を縦に振らないという辛酸を嘗めた経験がある。

 その後、巨額の補助金をテコに、外国企業を誘致して“日本製”最先端半導体を確保するプロジェクトに挑んだこともあった。なんとか台湾TSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)の熊本進出に漕ぎ着け、一時は成功したかに見えたものの、実際には同社が日本で生産するのは最先端とされる回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)から数世代遅れの「成熟品」というジレンマを克服できなかった。2021年秋の話題をさらったこの案件では、たとえ誘致には成功しても、最先端半導体の需要に乏しい市場しかなければ、外国企業はその製造に乗り出さない現実を思い知らされたという。

 そうした中で想定外の強い追い風が吹いた。世界的な半導体不足である。新型コロナ感染症でサプライチェーンに激震が走り、米中対立の激化とロシアによるウクライナ侵攻で世界の分断は一層進んだ。これらは、かつて日本の半導体潰しに躍起になった米政府にも180度の方針転換を迫り、日本の半導体産業復活に向けて協力する状況を生み出した。

2015年「東芝粉飾決算」という伏線

 今なお再建の先行きが不透明な東芝で、最初の粉飾決算が発覚した2015年。A氏は、当時の安倍晋三総理から首相官邸に呼ばれ、総理執務室で東芝の救済を激しい口調で迫られた。

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
町田徹(まちだてつ) 1960年大阪生まれ。経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業後、日本経済新聞社に入社。米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。雑誌編集者を経て独立。「日興コーディアル証券『封印されたスキャンダル』」(『月刊現代』2006年2月号)で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を受賞。著書に『電力と震災 東北「復興」電力物語』『行人坂の魔物 みずほ銀行とハゲタカ・ファンドに取り憑いた「呪縛」』などがある。2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。2019年~、吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員。
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