3期目習近平が早くも振るう国務院改革の大ナタ

執筆者:宮本雄二 2023年4月27日
タグ: 中国 習近平
エリア: アジア
新設委員会のトップを側近に譲るケースが出てくる可能性も[全人代で李強首相(右)と話す習近平国家主席=2023年3月12日](C)AFP=時事
科学技術や金融行政、香港政策の司令塔機能を党中央の直轄にするなど、体制3期目の本格開始を待ちかねたように党と国務院の機構改革が進んでいる。習近平の大テーマである党中央への権限集中の一環だが、李克強を押さえ込む狙いもあった1、2期目の改革以上に「国家安全」への目的意識は強いと言える。中国を固定的に捉えてはならない所以は、この「変わる力」のしたたかさにある。

 本年3月、中国共産党中央と国務院は連名で「党及び国家機構改革方案」を発出した。そこには金融、科学技術、社会組織、香港マカオ行政等の各部門の改革内容が記され、関係部門の実行を求めている[1]。今回は科学技術に絞って、その内容を検討してみよう[2]。そこから中国共産党の、自分たちのかかえる問題点を把握し、対策を立て、それを実行する力が並大抵のものではないことが見えてくるであろう。

  それが彼らの「変わる力」であり、この力を持つから長期政権を続けることができている。筆者が、中国を固定的に捉えるのではなく、中国が変わることを想定して対応策を考えよ、と主張している所以でもある。

国務院系列の領導小組はすべて廃止

 人口減に代表される中国経済をめぐる厳しい情勢に打ち勝つためには労働生産性の向上が不可欠であり、技術の高度化、科学技術の全面的利用は絶対に必要だ。質の高い経済を作るためには科学技術の底上げが急務なのだ。

  習近平はもともと「国家安全」に強い関心を示してきた[3]。しかも米国との長期戦、「持久戦」に入ったと明確に認識している。科学技術分野のデカップリングが進めば、経済だけではなく安全保障も打撃を受ける。それを回避するためにも自立した科学技術体系が必要になる。これらを背景にして22年10月の第20回党大会において、次のような方針が決定された。

科学技術創新体系を完全なものとする。現代化建設における創新の核心的地位を堅持する。党中央の科学技術に対する統一指導体制を完全なものとし、新たな挙国体制を完成させ、戦略的な科学技術力を強化する。創新資源の配置を適正化し、国の科学研究機構、高レベルの研究型大学、軍の科学技術をリードする企業の地位と配置を適正化し、国家実験室体系を作りあげる……。

 この基本方針を受けて、同年12月に開催された中央経済工作会議において23年度の科学技術政策が決まった。公表されたその概要は、次のようなものであった。時代を反映して「自立自強」が強調され、党大会を反映して企業の役割を重視したものとなっている。

自立自強に焦点を当てる。教育、科学技術、人才の各業務を統一的にしっかりと計画する必要がある。国家の重大な科学技術プロジェクトを実施できるように手配し、新たな挙国体制を完成させ、鍵となる革新的技術の難題を突破するために政府の組織力を発揮し、科学技術創新における企業の主体的地位を突出させなければならない。人才を自ら育成する、その質と能力を高め、高レベルの人材確保のスピードを加速させる。

 そして本年3月の「改革方案」につながっていく。科学技術部門の「改革方案」は、党の「中央科技委員会」の新設から始まる。これが、中国共産党が得意とし、習近平政権が特に多用しているトップダウン設計(頂層設計)でもある。党中央に直結した「中央科技委員会」の下に、すべての党と政府の関係組織が配置される。そこで党の基本戦略と方針に基づき具体的政策を策定し、それを関係部門に割り振り、実施を監督指導する。またプライオリティ付けや実施部門の間の対立や軋轢も……

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
宮本雄二(みやもとゆうじ) 宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使。1946年福岡県生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。78年国際連合日本政府代表部一等書記官、81年在中華人民共和国日本国大使館一等書記官、83年欧亜局ソヴィエト連邦課首席事務官、85年国際連合局軍縮課長、87年大臣官房外務大臣秘書官。89 年情報調査局企画課長、90年アジア局中国課長、91年英国国際戦略問題研究所(IISS)研究員、92年外務省研修所副所長、94年在アトランタ日本国総領事館総領事。97年在中華人民共和国日本国大使館特命全権公使、2001年軍備管理・科学審議官(大使)、02年在ミャンマー連邦日本国大使館特命全権大使、04年特命全権大使(沖縄担当)、2006年在中華人民共和国日本国大使館特命全権大使。2010年退官。現在、宮本アジア研究所代表、日本アジア共同体文化協力機構(JACCCO)理事長、日中友好会館会長代行。著書に『これから、中国とどう付き合うか』『激変ミャンマーを読み解く』『習近平の中国』『強硬外交を反省する中国』『日中の失敗の本質 新時代の中国との付き合い方』『2035年の中国―習近平路線は生き残るか―』などがある。
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