
本年3月、中国共産党中央と国務院は連名で「党及び国家機構改革方案」を発出した。そこには金融、科学技術、社会組織、香港マカオ行政等の各部門の改革内容が記され、関係部門の実行を求めている[1]。今回は科学技術に絞って、その内容を検討してみよう[2]。そこから中国共産党の、自分たちのかかえる問題点を把握し、対策を立て、それを実行する力が並大抵のものではないことが見えてくるであろう。
それが彼らの「変わる力」であり、この力を持つから長期政権を続けることができている。筆者が、中国を固定的に捉えるのではなく、中国が変わることを想定して対応策を考えよ、と主張している所以でもある。
国務院系列の領導小組はすべて廃止
人口減に代表される中国経済をめぐる厳しい情勢に打ち勝つためには労働生産性の向上が不可欠であり、技術の高度化、科学技術の全面的利用は絶対に必要だ。質の高い経済を作るためには科学技術の底上げが急務なのだ。
習近平はもともと「国家安全」に強い関心を示してきた[3]。しかも米国との長期戦、「持久戦」に入ったと明確に認識している。科学技術分野のデカップリングが進めば、経済だけではなく安全保障も打撃を受ける。それを回避するためにも自立した科学技術体系が必要になる。これらを背景にして22年10月の第20回党大会において、次のような方針が決定された。
科学技術創新体系を完全なものとする。現代化建設における創新の核心的地位を堅持する。党中央の科学技術に対する統一指導体制を完全なものとし、新たな挙国体制を完成させ、戦略的な科学技術力を強化する。創新資源の配置を適正化し、国の科学研究機構、高レベルの研究型大学、軍の科学技術をリードする企業の地位と配置を適正化し、国家実験室体系を作りあげる……。
この基本方針を受けて、同年12月に開催された中央経済工作会議において23年度の科学技術政策が決まった。公表されたその概要は、次のようなものであった。時代を反映して「自立自強」が強調され、党大会を反映して企業の役割を重視したものとなっている。
自立自強に焦点を当てる。教育、科学技術、人才の各業務を統一的にしっかりと計画する必要がある。国家の重大な科学技術プロジェクトを実施できるように手配し、新たな挙国体制を完成させ、鍵となる革新的技術の難題を突破するために政府の組織力を発揮し、科学技術創新における企業の主体的地位を突出させなければならない。人才を自ら育成する、その質と能力を高め、高レベルの人材確保のスピードを加速させる。
そして本年3月の「改革方案」につながっていく。科学技術部門の「改革方案」は、党の「中央科技委員会」の新設から始まる。これが、中国共産党が得意とし、習近平政権が特に多用しているトップダウン設計(頂層設計)でもある。党中央に直結した「中央科技委員会」の下に、すべての党と政府の関係組織が配置される。そこで党の基本戦略と方針に基づき具体的政策を策定し、それを関係部門に割り振り、実施を監督指導する。またプライオリティ付けや実施部門の間の対立や軋轢も……

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