2022年秋の中国共産党第20回党大会を境目として、中国の国内情勢に変化が生じている。17年の第19回党大会における野心的な内外政策と、その後の言動から、自己主張の強い強権的な習近平政権という見方が定着した。現在、それを一部修正する必要が出てきているのだ。
中国は、今や世界第二の大国となり、存在感を高め、影響力を増している。中国の変化を敏感に捉え、中国との関係に随時修正を加えていくことは、日本のみならず世界にとっても必要不可欠な作業だ。日本は、そのように変化を続ける中国と、これから如何に付き合って行けば良いのであろうか。
政治的な安全を求めない不満分子の増加
習近平政権の求心力は、22年秋の党大会の直後、ゼロ・コロナ政策という鳴り物入りの政策が、突然、180度転換されたことにより大きく減じた。その後、その件には誰も言及せず、あたかもそんな政策をやったことはないという態度をとられれば、政権への信任、政策への信頼は揺らぐ。
中国の経済も社会も、コロナから受けた打撃は大きい。経済はコロナ後、急速に回復するはずだったが、2年経った今も上向く気配はない。コロナ禍から続く経済の不調と失業者の増加は、格差の拡大を目立たせ、社会不満を増大させる。これに加えて、何度も指摘してきた官僚機構の疲弊がある。現状への不満は大きくなっており、この政権に経済運営を任せて良いのかという雰囲気は広がっている。その結果、国民の将来に対する期待値も低下し、政権への求心力は確実に低下している。そうすると社会の不満分子がうごめき出す。
本年6月の蘇州、9月の深圳における日本人学校バス・児童襲撃事件は、この社会情況を反映した事件である可能性は高い。良く反日の動きと結びつけて語られるが、中国における反日運動には社会的基盤があり、社会も支持する。反政府の輩も、時に反日に紛れ込んで憂さ晴らしをするが、そこは政治的に安全な空間だからだ。しかし子供の殺傷は社会を敵に回す。蘇州において命がけで日本人の子供を守ろうとした中国人女性の存在は、中国社会の価値観を示している。
日本人学校への襲撃事件は、政治的な安全を求めておらず、もっぱら不満のはけ口として利用されている。日本人学校を執拗に攻撃するネット上の動きが、個々人の社会への不満を日本人学校に誘導した可能性はある。政権の統治に対する批判のシンボルとなり得るからだ。
だからと言ってパニックになる必要は毛頭ない。たとえそうだとしても、当局はすでに十分な対応を終えているだろう。われわれが問題の所在に気づいたときには、当局はすでに対策を立てているというのが、私の経験則だ。
米中関係の核心、「台湾問題」における日本の重要性
政権に対する求心力の低下は、当局も当然、気づいているはずだ。
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