マリ「MINUSMA」撤収に改めて問う「国連PKOの内実と限界」

執筆者:篠田英朗 2023年7月11日
タグ: 国連
エリア: アフリカ
マリで対テロ軍事作戦「バルカン作戦」に従事するフランス兵(2015年12月)(C)Fred Marie / Shutterstock.com
約1万5000人の要員を擁する国連PKO、「MINUSMA(マリ多元統合安定化ミッション)」の終了が決まった。10年以上続くマリの武力紛争に枠組みを変化・拡大させながら対応したが、304人の殉職者を出したMINUSMAが国連PKOの抱える問題の象徴となったことは否めない。NATOからの要員と現地の連携不在、信頼の欠落が招き寄せたワグネルの暗躍など、現代の国際平和活動の構造問題がここに浮き彫りになっている。

 6月30日、国連安全保障理事会は、全会一致で、マリの国連PKO(平和維持活動)であるMINUSMA(マリ多元統合安定化ミッション)の活動を終了させる決議を採択した。MINUSMAは現代の平和維持活動を代表する巨大PKOであった。そのため、一つの時代が終わったという意識を、関係者に与えている。

 ロシア・ウクライナ戦争を通じてロシアの民間軍事会社「ワグネル」が表舞台に登場するようになった。そして長期にわたってマリでワグネルが暗躍していたことが、良く知られるようになった。活動終了の決め手となったマリ暫定政府のMINUSMA撤退要求は、一向に回復しない治安情勢を反映した国連不信と反欧米の感情が、ワグネルへの依存につながっていった流れの中で生まれた出来事だ。アメリカ政府は、決議に賛同しながら、2021年以降だけでマリからワグネルに2億ドル以上が流れたとして、マリ暫定政府の背後にいるワグネルを非難した。

 国際社会の全般的な情勢を反映した出来事だという意味でも、MINUSMA活動終了が持つ意味は大きいと言える。……

この記事だけをYahoo!ニュースで読む>>
カテゴリ: 軍事・防衛 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)など多数。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top