インド、40年来の悲願「半導体国産化」が急展開の理由

執筆者:緒方麻也 2023年7月18日
タグ: 半導体 インド
エリア: アジア
米政府は国策としてインドの半導体産業支援にかじを切った[米印企業経営者との会見で発言するモディ首相と、(左から右へ)グーグルCEOのスンダー・ピチャイ氏、アップルCEOのティム・クック氏、バイデン大統領=2023年6月23日、米国・ワシントンDC](C)AFP=時事
2000年から2020年までの期間、インドの半導体関連産業に流れ込んだ海外直接投資は30億ドルに過ぎなかった。6月末に米マイクロンがグジャラート州に27.5億ドルの投資を決めるなど半導体産業誘致が急展開を見せる背景には、軍事やハイテク分野でインドに急接近する米バイデン政権の意向、国内市場の規模拡大、そして台湾メーカーとの連携強化が存在する。

 

 高成長軌道へと復帰しつつあるインドが取り組む、悲願の半導体「国産化」プロジェクトが不安混じりのスタートを切った。

 6月末、米半導体製造大手のマイクロン・テクノロジーは、印西部グジャラート州政府との間で、同州に半導体の生産・試験設備を設立する覚書(MOU)を締結。インド初の半導体工場が現実のものとなる。

 その一方で、鳴り物入りで打ち出した印政府の半導体産業振興政策「インド半導体ミッション(ISM)」の補助金つきの工場誘致に手を挙げた3つの企業グループのうち、印資源大手「ベダンタ」と組んで半導体工場建設を表明していた台湾のフォックスコン(鴻海)が7月中旬、合弁解消を表明した。フォックスコンは直ちには撤退せず新たなパートナーを探す意向だが、やはりインドが目指す「半導体ハブ」への道は平坦ではない。

 マイクロンの新工場建設地は、タタ自動車などが入居する州の中心都市アーメダバード郊外のサナンド工業団地。第1~2期の総投資額は27.5億ドル(約3900億円)で、このうち印政府の半導体産業振興政策「インド半導体ミッション(ISM)」に基づいて連邦政府が50%、州独自の半導体振興政策によって20%を補助するという破格の条件だ。マイクロン社の負担は8.25億ドルとなる。グジャラート産業開発公社(GIDC)が同工業団地内区画で約37.6万平方メートルの土地を提供する予定。

 クリーンルームを備えた工場の第1期工事は2024年末に完成し、いよいよメード・イン・インディアの半導体が送り出される。州政府によると直接雇用だけで5000人、間接雇用を含めると2万人の新規雇用創出を見込めるという。インドにおいては熊本にやってくるTSMC(台湾積体電路製造)をはるかに上回るインパクトがありそうだ。

「印半導体支援」はバイデン政権の国策に

 6月下旬に訪米したナレンドラ・モディ印首相は、ジョー・バイデン米大統領との首脳会談に先立ちワシントンでマイクロンのサンジェイ・メロートラ最高経営責任者(CEO)と会談している。同社のインド進出案件はここで最終合意に至ったのだろう。メロートラ氏は北部ウッタルプラデシュ州出身のインド系米国人なので話は早かったのかもしれない。モディ首相はさらに、米半導体製造装置大手アプライド・マテリアルズのゲイリー・ディッカーソンCEOとも会談したが、同社は早速、IT都市ベンガルールに4億ドルを投資し、最先端の技術者500人を抱えるエンジニアリングセンターを開設する計画を表明した。これは同社にとってインドで7番目の拠点となる。いずれも、軍事やハイテク分野でインドに急接近する米バイデン政権の意向が強く働いたと言っていいだろう。

 米国とインドは今年1月、ワシントンで米印重要新興技術イニシアチブ(iCET)の初会合を開催、半導体をはじめ防衛や航空宇宙、バイオ技術など幅広い分野での連携を確認した。特に半導体分野では米半導体産業協会(SIA)と印エレクトロニクス・半導体協会(IESA)による民間主導のタスクフォース設立も決まった。米印両国政府は3月にも、半導体のサプライチェーン強靱化を目指すMOUに調印している。今回のマイクロンなどによる投資案件が具体化したのも、こうした流れの一環と言える。米政府は国策としてインドの半導体産業支援にかじを切ったのだ。

チップ設計では定評があるが……

 2008年にインテルが送り出したプロセッサ「Xeon7400」シリーズはインドで開発されたことで知られている。このようにソフトウェア開発や半導体の設計では世界的に評価されているインドだが、……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
緒方麻也(おがたまや) ジャーナリスト。4年間のインド駐在を含め、20年にわたってインド・パキスタンや南アジアの政治・経済の最前線を取材、分析している。「新興国において、経済成長こそがより多くの人を幸福にできる」というのが信条。
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