習近平「国家安全」への執心が世論を統べるメカニズム

執筆者:宮本雄二 2023年8月28日
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陳文清・党中央政法委員会書記の重用は国家安全部門の台頭を象徴している[2019年12月18日、イラン・テヘラン](C)AFP=時事
情報・治安部門を束ねる党の政法委員会トップに前国家安全相の陳文清が就任するなど、いまや国家安全部門の影響力は公安部門を引き離した。こうした習近平の「安全」に対する執着が、経済という喫緊の課題への対応を鈍らせている。そして、習近平の対米強硬姿勢が米中タカ派の非難の応酬に発展し、それが世論にもフィードバックされて「米国に立ち向かわなければ中国は潰される」との合意が形成される構図を捉える必要があるだろう。

 多くの識者が、習近平政権の特徴の1つとして「安全」に対する強い関心を指摘する。確かに、その通りだ。党と社会の管理を強化してきたのは、そうすることで党中央の考え通りに全体が動くようにするためだが、同時に国の内外の安全に対する強い懸念があったためでもある。

影響力を格段に強めた「国家安全部」

 2012年に総書記に就任した後、13年に「国家安全委員会」の設置を決定したが、これは習近平の強い意向だったと推測できる1。国家の安全、とりわけ体制の安全に強い関心を持つ習近平にとり、当時の状況は惨憺たるものに見えたであろう。国家安全に関するトータルな考えもなく、党と政府の組織もバラバラであり、しかも腐敗体質は蔓延している。外からの浸透に対する備えにも、また国内の対応にも、現状は甚だ不十分だと思ったはずだ。そもそも江沢民時代から「国家安全委員会」という国家安全を統合的に見る組織の設置の必要性が指摘されたにもかかわらず、先送りされてきたところに問題があった。

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執筆者プロフィール
宮本雄二(みやもとゆうじ) 宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使。1946年福岡県生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。78年国際連合日本政府代表部一等書記官、81年在中華人民共和国日本国大使館一等書記官、83年欧亜局ソヴィエト連邦課首席事務官、85年国際連合局軍縮課長、87年大臣官房外務大臣秘書官。89 年情報調査局企画課長、90年アジア局中国課長、91年英国国際戦略問題研究所(IISS)研究員、92年外務省研修所副所長、94年在アトランタ日本国総領事館総領事。97年在中華人民共和国日本国大使館特命全権公使、2001年軍備管理・科学審議官(大使)、02年在ミャンマー連邦日本国大使館特命全権大使、04年特命全権大使(沖縄担当)、2006年在中華人民共和国日本国大使館特命全権大使。2010年退官。現在、宮本アジア研究所代表、日本アジア共同体文化協力機構(JACCCO)理事長、日中友好会館会長代行。著書に『これから、中国とどう付き合うか』『激変ミャンマーを読み解く』『習近平の中国』『強硬外交を反省する中国』『日中の失敗の本質 新時代の中国との付き合い方』『2035年の中国―習近平路線は生き残るか―』などがある。
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