ウクライナはイスラエルのように生きることができる

Foresight World Watcher's 5Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2023年9月22日
エリア: ヨーロッパ
早期の勝利を祈りつつ、長い闘争に向けた計画を立てよ、と英エコノミスト誌[国連総会一般討論演説に臨むゼレンスキー大統領=2023年9月19日、アメリカ・ニューヨーク](C)AFP=時事

 今週もお疲れ様でした。6月の反転攻勢開始から3カ月以上が経過し、秋雨による地面のぬかるみで戦闘車両の移動が難しくなるという10月が近づいてきました。国連総会に登壇したゼレンスキー大統領がロシアへの対抗を改めて訴えかけた一方で、米議会には共和党の一部からウクライナへの追加支援に強く反発する声が上がっています。

 こうした中、ウクライナは長期戦を前提に軌道修正が必要だと指摘するのは英エコノミスト誌。「まず『勝利』を、続いて再建を」から、「長期戦を戦いながら繁栄を実現する」ことへ目標を転換せよという主張です。同誌がゼレンスキー大統領の発言として伝える「犠牲者を最小限に抑えながら長期にわたって戦い続ける用意がわれわれにはある。たとえば、イスラエルのように」との言葉は、確かに潮目の変化を印象付けます。目下の反転攻勢の評価を出すにはまだ早いものの、国際社会が新たなシナリオへの準備を求められているのは確かでしょう。

 フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。

Ukraine faces a long war. A change of course is needed【Economist/9月21付】

「ウクライナにおける戦争は何度も何度も人々の予想を裏切ってきた。同じことが今また起きている。6月に始まった反転攻勢は、ドイツで訓練を受け、西側の最新兵器を装備したウクライナ兵が、その後の交渉で指導者たちが有利な立場に立てるだけの領土を奪還するとの期待にもとづくものだった」
「この計画はうまくいっていない。英雄的な努力とロボティネ近郊でのロシア軍の防衛網の突破にもかかわらず、ウクライナが解放した領土は、6月にロシアが占領した領土の0.25%にも満たない。1000キロに及ぶ前線はほとんど移動していない」

 英「エコノミスト」誌の「長期戦に直面するウクライナ 軌道修正が必要だ」(9月21日付)は、このように始まる。その説くところは、「まず『勝利』を、続いて再建を目指すのではなく、ウクライナが長期戦に耐えられるだけの持続力を持ち、そしてその長期戦にもかかわらず繁栄できることを目標とするべきだ」というもの。具体的には、軍事戦略と経済運営の見直しが必要だという。

 軍事戦略において求められている新たな方向性には、次のことが挙げられている。

■兵力不足を補うため、ドローンの開発と生産を強化する

■西側からの支援として、兵器の供給に加えて、その保守や修理なども受ける

 一方、経済運営では、

■戦後復興から、生産と設備投資の強化へとシフトする

■援助への依存から、投資の誘致へのシフトする

 軍事面でNATO(北大西洋条約機構)への加盟が望ましい道筋だとされるように、経済面ではEU(欧州連合)への加盟を新たな希望として位置づけるべきだというのが、エコノミスト誌の立ち位置だ。

 同誌はさらに、軍事・経済の両面での軌道修正を進めるには、ウクライナ国内の行政や司法を「クリーンで公平」なものにする改革と、西側諸国、特に欧州の「考え方の転換」が不可欠だとし、後者において欧州諸国に次のような“覚悟”を求めている。

「[ドナルド・]トランプ氏が2024年に勝利すれば、米国の軍事援助を削減するかもしれない。たとえ敗れたとしても、欧州は最終的に多くの負担を背負う必要がある。つまり、防衛産業を強化し、より多くの加盟国に対応できるよう、EU[欧州連合]の意思決定を改革するということだ」
「これは非常に難しい賭けだ。失敗すれば、EUのすぐ脇に破綻国家が生まれ、[ウラジーミル・]プーチン氏の殺人マシーンがさらに多くの加盟国の国境に接近する。成功すれば、3000万人の高学歴人口、欧州最大の軍、大規模な農業・工業基盤を持つ新たなEU加盟国が誕生する」

 記事はこのように締めくくられる。

「ウクライナについては、あまりに多くの会話が『戦争の終結』を前提にしている。この状況を変える必要がある。早期の勝利を祈りつつ、長い闘争に向けた計画――そして、そのなかでもウクライナが存続し、繁栄するための計画を立てよう」

To endure a long war, Ukraine is remaking its army, economy and society【Economist/9月21付】

 一方、ウクライナ国内に不可欠な変革については、同じエコノミスト誌サイトに同じ9月21日付で掲載された「長期戦に耐えるため軍・経済・社会を作り変えるウクライナ」が詳しい。

 やはり、対ロシア戦が短期では終わらないとの見通しのもと、この記事もまず、ウクライナ政府がドローン開発・生産の強化に乗り出していること、英BAEシステムズや独ラインメタルといった欧州の兵器メーカーによる国内での砲弾や装甲車の生産を迎え入れることを紹介。ウクライナのドローンによるロシア国内への攻撃が増え、その大きな目的のひとつは農産物などの輸出ルートの確保だという読み筋も伝えている。

「輸出の保護に重点が置かれているのは、ウクライナ政府関係者の間に、長期戦に対応するためには経済にも抜本的な見直しが必要だとの意識があることの反映だ。ウクライナは昨年、310億ドルの資金を援助され、今年はさらに多くの援助を受ける予定だ。しかしセルヒー・マルチェンコ財務相は、このような大盤振る舞いがいつまでも続くわけではないと想定している」
「一方、軍事費の対GDP比は戦前の5%から今年は26%に跳ね上がった。[中略]ウクライナの安全保障を賄うには、縮小した経済規模では税収が足りず、政府はビジネス環境を改善し、産業を育成することで経済成長を助けなければならないと、マルチェンコ氏は指摘する」

 そのうえで、ウクライナへの投資を増やすには、

■汚職が横行し、海外投資家から信頼されていない司法・行政システムの改善

■700万人も海外に流出(その3分の2以上が女性)した人口の呼び戻し

 ……が欠かせないとし、そのための施策はウクライナ国内にも、次のような好影響をもたらすと、記事は指摘する。

■徴兵逃れなどのための贈収賄の減少による、社会全体の不公平感の是正・政治への信頼度の回復

■女性が国外に流出し、男性が国内に残されることによる社会問題(離婚の増加や、流出組と残留組の格差の拡大など)の緩和

 記事にはウォロディミル・ゼレンスキー大統領が最近国内で語ったという次のような言葉が紹介されており、ウクライナの臨戦態勢が、医療用語で言うなら急性期から慢性期へと移りつつあることを、あらためて強く印象づける。

「(戦いと)共存しながら生きていくことを学ぶ必要がある」「[中略]犠牲者を最小限に抑えながら長期にわたって戦い続ける用意がわれわれにはある。たとえば、イスラエルのように。われわれもあのように生きることができる」

 ウクライナへの“支援疲れ”が、まず目につくようになったのは、共和党系の一部から支援継続への疑問の声が高まった米国だった。だが、最近ではポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相がウクライナへの兵器供与を見直すと“失言”するなど、欧州への波及も進みつつある。

 欧州を代表するメディアのひとつであるエコノミスト誌が、戦争の長期化見通しにもとづく記事を連発し、先に紹介した記事「~軌道修正が必要だ」では“トランプ大統領再登場=米国による支援の先細り”というシナリオにまで言及して、欧州によるウクライナ支援の持続をあらためて訴える――。これもまた、ロシア・ウクライナ戦争が大きな変化の潮目を迎えている印なのだろう。

Did Kennan Foresee Putin?【Andrei Kolesnikov/Foreign Affairs/9月20日付】

 米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌サイトに9月20日付で掲載された「ケナンはプーチンを予見していたのか?」が、同サイトの「最も読まれている記事」ランキングで1位につける(米東部標準時 9月22日午前0時時点)など、注目を集めている。……

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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