対欧州「EV摩擦」は序章に過ぎない? 中国「外需頼み」の輸出攻勢

執筆者:滝田洋一 2023年10月30日
タグ: 中国 EV EU
エリア: アジア
低成長かつ輸出頼みという傾向がさらに強まる可能性が高い[船積みを待つBYDのEV=2023年9月11日、中国・江蘇省蘇州港](C)AFP=時事
不動産バブル崩壊で失速した景気にテコ入れするには金融緩和が必要だ。しかし、人民元安と資本流出に見舞われながらの金融緩和は、これを加速しかねない。中国はいま、典型的な「国際金融のトリレンマ」を体現している。頼みの綱は外需だが、それは中国製EV(電気自動車)の市場流入をめぐるEU(欧州連合)との摩擦に見られるように、「近隣窮乏化」の波紋を広げて行く。

 中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」。その10周年を記念するサミットが10月17~18日の両日、北京で開かれた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が出席し、習近平国家主席と首脳会談が行われた。その模様は大きく伝えられたが、肝心の一帯一路サミットに関する報道は低調だった。参加した首脳が一堂に会する円卓会議が開けなかったからでもあろう。

 中国との経済関係を維持したいアジア、アフリカの首脳たちは、経済的なメリットを期待して中国を訪問した。その彼らも逮捕状の出ているプーチン氏と席を並べる会合はご遠慮願うと伝えたのだろう。そもそも首脳級の参加者は2019年には約40カ国だったが、今回は会議が終わった18日時点で中国側はその数を発表しなかった。

人民元安の原因には止まらない資本流出

 享年68。李克強前首相が27日、上海で死去した。公式発表によると、死因は心臓発作。現職の外相と国防相が失脚し、国防相は空席のまま。それに続いて、前首相の死去。そして誰もいなくなった、を地で行く展開である。

 李克強氏が掲げたのは「リコノミクス」と称される経済改革路線。それを退けた習近平氏は、高成長にこだわった。その結果が、不動産バブルと地方政府の隠れ借金の膨張である。共同富裕の名の下に民間企業への国家統制を強めたことと相まって、今日の経済苦境の主因であることを誰が否定できよう。

 思えば1年前の22年10月。習氏の3期目入りを高らかに歌い上げるはずだった中国共産党大会で、胡錦濤前国家主席が閉会式を途中退席する一部始終が走馬灯のように甦る。抗議のそぶりをみせる胡氏を、習氏氏は鉄面皮のように無視し、李氏は当惑の表情をうかがわせたようにみえた。そして現体制は個人崇拝を強める。

 迫りくる老いに怯えるリア王のように、着実にピークアウト感が漂っている。70歳を迎えた習近平氏にだろうか、成長鈍化が誰の目にも明らかになった中国経済にだろうか、それとも中国の権威主義体制にだろうか。そのすべてに対してだろう。株価は正直である。中国の代表的株価指標である上海総合指数は10月20日、一帯一路サミットの閉会を待つかのように3000の大台を割り込んだ。

 10月23日には2920台まで下落する場面もあった。上海総合指数は2022年4月や同10月にも3000を割ったが、その時は間もなく3000の大台を回復した。「国家隊」と呼ばれる当局の指示による買い支えが入ったからだ。

 今回は夏から秋にかけてだらだらと下り坂が続き、あわや底割れとなったのである。国家隊による買い支えだけでは間に合わないと判断したからだろう。全国人民代表大会(全人代)常務委員会は10月24日、新規国債の1兆元(約20兆5000億円)増発を承認した。景気対策を好感し、上海総合指数は3000の大台に持ち直した。だが国債の増発は、地方政府による財政拡大の余地のないことの裏返しである。

 風邪の引き始めのような悪寒がさす嫌な感じ。原因はハッキリしている。中国経済を牽引してきた不動産市場のバブル崩壊である。中国当局は様々な景気と株価のテコ入れを重ねた。だがいずれも中途半端で、空回りに終わっている。

 思い切った金融緩和に踏み切れないのはなぜか。中国が資本流出に怯えているからだ。……

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
滝田洋一(たきたよういち) 1957年千葉県生れ。日本経済新聞社特任編集委員。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」解説キャスター。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了後、1981年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ支局、経済部編集委員、米州総局編集委員などを経て現職。リーマン・ショックに伴う世界金融危機の報道で2008年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。複雑な世界経済、金融マーケットを平易な言葉で分かりやすく解説・分析、大胆な予想も。近著に『世界経済大乱』『世界経済 チキンゲームの罠』『コロナクライシス』など。
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