AI運用が人間を超える日は来るか
浅井 2005年の創業以来、最初の10年間は債券の世界で名をはせたトレーダーや、マーケットを熟知した数学、物理、統計の優秀な学生を集めた時期だったが、最近 5年は採用の主眼は圧倒的にテクノロジーだ。マシンラーニングができる人材をGoogleやFacebook(Meta)と取り合っている状態だ。
キャプラはマシンラーニングを進化させて、結果として最終的にAIにたどり着くといったアプローチをとっている。トレーディングの効率性向上、できれば将来予測までと考えて4年ぐらい詰めてきたが、まだ高いシャープレシオ(注 運用の巧拙を測る指標。リターンをリスクで割って求める。数値が高いほど運用効率が良い)の運用ができるところまでは行っていない。
高井 ネックは何か。
浅井 AIのモデルのシャープレシオは0.5から0.8程度。リスクに対して6、7割ぐらいリターンが出る。キャプラのトップトレーダーはシャープレシオ6という、ちょっと理解不能な数字を15年間、安定して出している。調子が悪くても年間200億円、調子が良ければ1000億円の利益を出す。世の中にはそういう怪物が何人もいる。サッカーにたとえると、まだプレミアリーグは厳しく、2部、3部のレベルは AIがカバーできるイメージだ。
株価はランダムウォークという言い回しがあるが、それを予想の範囲内に持っていくのがトレーダーの仕事の一つだ。AIは現時点の認識能力には優れているが、将来を読む力はまだ人より若干落ちるということだと思う。追いつくにはあと7~8年かかるのではないか。
インフレが変えた風景
高井 この1年でマーケットの風景は大きく変わった。
浅井 インフレは1990年の後半以降、全く見られなかった。それが引き起こす経済的なジレンマがどうマーケットに反映されるか読み違えた投資家が多かった。米国がゼロ金利だった2021年時点で、政策金利が5%になると予測していた人はあまりいなかった。我々はいろいろな外部機関と連携した分析で、FRB(米連邦準備理事会)やシンクタンクの予想よりインフレが強くなり、大幅な利上げが必要になる可能性を見据えて動けた。
日本でも同じようなアプローチが必要と考え、7月から東大の渡辺努教授をアドバイザーに迎えた。東大の物価指数に使う1万2000のPOS(販売時点情報管理)データだけでなく、不動産家賃、サービス価格、現金収入の動向などのデータを収集して分析している。物価や経済の予測をきっちり当てていけば、収益としてポートフォリオに反映される時代がやっと日本にも来た。
高井 日本の金融政策も景気と物価次第で動く可能性が出てきたのか。
浅井 もう動き始めている。イールドカーブ・コントロール(YCC)の国債無制限買い入れのラインを引き上げ、近くYCC自体も撤廃が見えてくる。物価上昇率2%の定着が初めて展望される時代になった。そういった仮定の中で金融政策が動き、どんなメカニズムで金利や為替のマーケットが動くか、分析しやすい環境になってきた。
高井 米国に話を戻したい。FRBでさえ「一時的」と見誤った。なぜ高インフレを予想できたのか。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。