欧米諸国が「ガザ危機」ではまった罠――「10・7は9・11ではない」と捉えた国際社会
ガザの人道的惨禍が広がっている。蛮行によってハマスに囚われた人質の解放が進展せぬまま、ガザの市民の悲惨な被害が積み重なっている。出口が見えない。
それでも前を向いていくために、状況の分析把握は怠りたくない。そこで本稿では、政策的考察にあたって一つの要素となる国際社会の動向について、分析を試みる。
欧米諸国が威信を低下させてきた21世紀の傾向に、今回のガザ危機で、いっそう拍車がかかる様子が観察される。その現実を見極めながら、ガザの現場で何ができるかを考えていかなければならない。
欧米諸国内に「グローバルな対テロ戦争」への忌避感
2022年2月のロシアのウクライナ全面侵攻からは、欧米諸国が団結してウクライナ支援にあたってきているだけではなく、国連総会におけるロシア非難決議では141カ国の賛成を獲得するなど、国際社会の動向も欧米主導の流れを作ることができた。
これに対して10月27日の国連総会決議では、人道的休戦を求める内容の決議に、イスラエルやアメリカが反対する中で121カ国の賛同が集まった。ウクライナに対する国際社会の姿勢が、そのままガザ情勢に転化されるわけではないとしても、2022年初頭に作られた欧米主導の国際世論に、大きな逆の流れが働き始めたことは否定できない。
10月7日のハマスによるテロ攻撃の直後、アメリカやイギリスなどの主要な欧米諸国指導者やEU(欧州連合)委員長は、極めて情緒的な調子で、イスラエルとの連帯を表明した。「これは9・11だ」というイスラエルの説明を鵜呑みにして、イスラエルと連帯する世界的な運動を主導しようとしているかのようだった。
だが世界の大多数の人々は、10月7日の事件を、異なる視点で見ていた。そもそも「10・7」が「9・11」だとしても、再び2001年以降の「グローバルな対テロ戦争」をやり直すなどという考えは、全く受け入れられない。それはイスラエルのガザにおける空爆が始まった後の、世界各地における大規模な反イスラエルのデモによって表現されている。大規模デモが、ロンドンなどの主要な欧米の都市においても発生していることは、「10・7は9・11ではないし、仮に9・11だったとしても、あの時と同じ対応を取るのは嫌だ」という感情が、欧米諸国の内部にも根深く存在していることを示していると言えるだろう。……
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