Weekly北朝鮮『労働新聞』 (52)

北朝鮮国民は知らない金与正「対日談話」の狙い(2024年2月11日~2月17日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年2月19日
エリア: アジア
金正恩国務委員長が射撃実験に立ち会った地対艦ミサイル「パダスリ6」型(『労働新聞』HPより)
金正恩国務委員長の妹・金与正氏の日本向け談話は、北朝鮮国内では報道されていない。談話の直接的な狙いは岸田政権の真意を測ることだとみられるが、日朝関係を少しでも改善し、米国でトランプ大統領が返り咲いた場合に備えていると考えられる。『労働新聞』注目記事を毎週解読
 

 2月15日付1面には、左半分に金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が地対艦(朝鮮語原文は「地上対海上」)ミサイル「パダスリ(海鷲)6」型の検収射撃実験を指導したとの記事、右半分に重要軍需工場を現地指導したとの記事が掲載された。金正恩による複数の動静が同時に掲載される場合には、ページをまたいで報道するか、第1面の上下に掲載されるかが常であり、1ページで左右に分割掲載して2つの動静報道が同じように重要だと示すものは初見である。そこに深い意味はなかろうが、読者としては斬新なレイアウトと映る。

 16日は金正日(キム・ジョンイル)誕生日「光明星節」であり、翌17日付は金徳訓(キム・ドックン)内閣総理を筆頭とした朝鮮労働党や政府の幹部が錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を訪問した様子を写真入りで報じた。金正恩は2022年からこの日の参拝に参加していない。

 14日付1面トップでは、金正日誕生日に際してシリアのバッシャール・アル=アサド大統領が金正恩に宛てた祝電が紹介された。ちょうどこの日、キューバと韓国が国交を樹立したことにより、南北朝鮮のうち北朝鮮とだけ国交を有する国連加盟国はシリアのみとなった。

 15日、金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会副部長による日本向けの談話を朝鮮中央通信が報じた。『労働新聞』はそれを掲載せず、自国民には知らせていないため、日朝関係の方向性を示したものとは言いがたいが、金与正による初の対日談話であるため注目せざるを得ない。

譲歩すべきは日本との主張

 談話は、岸田文雄総理が衆議院予算委員会で日朝関係の現状を大胆に変えていかなければならないなどと述べたことに対し、

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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