
自民党の派閥パーティーをめぐる裏金問題は、この党の驕りと腐敗体質をあぶりだした。民間企業に求められているコンプライアンス(法令順守)も自民党には無縁だった。不明朗なカネ配りが横行する組織は、時代遅れになっている。岸田文雄首相は自ら率いてきた岸田派(宏池会)の解散を打ち出すなど、世論の反発をかわそうと懸命だが、批判の声は収まりそうにない。自民党を支える足腰や人材、そして政策が行き詰まる中で、長く政権を維持してきた「自民党システム」そのものが終焉する時を迎えている。
派閥を通じたマネーロンダリング
裏金問題は2023年秋、神戸学院大学の上脇博之教授らの独自調査で発覚した。政治資金集めパーティーは20万円超のパーティー券購入者は氏名などの公開が義務付けられているが、一部の政治団体(医師政治連盟、酪農政治連盟など)がネット上で支出を公表しているのに対し、派閥側の政治資金収支報告書には収入の記載がない。その点を調べ上げたところ、2018~21年の4年間で、安倍派(清和政策研究会)で約1900万円など、自民党の各派閥で計約4000万円の不記載が明らかになった。
各派閥は「事務的ミス」として政治資金収支報告書を修正したが、疑惑はさらに広がった。各派閥は、政治資金パーティーに向けて所属議員にパーティー券販売のノルマを課す。各議員はノルマを上回った分をピンハネして自分の資金にした。「中抜き」と呼ばれていた。さらに、派閥に納めた分でも余った資金は所属議員に還流された。「キックバック」である。
中抜きとキックバックによる裏金づくりは、派閥を通じたマネーロンダリング(資金洗浄)だった。所属議員が100人規模の安倍派では、ほとんどの議員が裏金を受け取っていた。自民党の聴き取り調査によると、安倍派の衆参両院議員らのうち79人が派閥からの還元を受けていたと証言。「5人衆」と呼ばれる幹部が受け取った5年間の裏金は、萩生田光一前政調会長2728万円▽世耕弘成前参院幹事長1542万円▽松野博一前官房長官1051万円▽高木毅前国会対策委員長1019万円▽西村康稔前経済産業相100万円だった。
このほか、東京地検特捜部の捜査によって政治資金規正法違反(虚偽記載)の容疑で逮捕・起訴された池田佳隆衆院議員、在宅起訴された大野泰正参院議員、略式起訴された谷川弥一前衆院議員の3人は自民党を離れたため、聴き取りの対象にならなかったが、それぞれ4000万円~5000万円の還流を受けていたとみられる。二階派でも、二階俊博元幹事長の3526万円を含めて国会議員ら計6人の還流が明らかになっている。
裏金以外でも自民党の資金をめぐる疑惑として浮上しているのが政策活動費だ。自民党本部から幹事長らに巨額の資金が渡っているが、その使いみちは公表されない。二階氏は幹事長だった2016年から21年の間に計50億円を政策活動費として受け取り、現在の茂木敏充幹事長も22年に約9億7000万円を受け取っている。各種選挙のてこ入れなどに支出されたとみられるが、野党からは「廃止」を求める声が強まっている。
納税者には防衛費増額の財源のための増税などの負担増を予定しているのに、自民党の政治家が不明朗なカネにまみれている。民間企業では経費についてのコンプライアンスが厳格になっている中で、自民党の体質に「旧態依然」という印象を抱く国民は多い。その結果、各種世論調査で岸田内閣の支持率は急落。自民党の支持も大きく低下している。2月中旬の世論調査では、岸田内閣の支持率が毎日新聞で14%、朝日新聞で21%と、いずれも内閣発足以来、最低を記録。自民党内には衝撃が広がっている。
第2次安倍政権以降に急増した資金還流
そこで、裏金問題から見えてくる自民党システムの「危機」の底流を探ってみよう。……

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