ハマース指導者暗殺、ガザ戦争と「イスラエル・イラン関係」への影響で理解すべき重要ファクト

執筆者:村上拓哉 2024年8月2日
エリア: 中東
ハニーヤ氏はイランにとって大事な同胞ではあるが、イラン権益そのものではないことにも注意が必要だ[カタールでの埋葬に先立ちイランで行われたハニーヤ氏の葬列=2024年8月1日、イラン・テヘラン](C)AFP=時事
ハニーヤ氏暗殺は組織としてのハマースに影響するか。大統領就任式の“客人”を殺されたイランは、この屈辱をどうすすぐか。レバノンのヒズブッラー、イラクのイスラーム抵抗、イエメンのフーシー派など、周辺諸国の親イラン民兵に対する含意は――。中東の「全面戦争」を懸念する声が高まるいま、ふまえておくべきファクトを確認する。

 7月31日未明、イラン訪問中のハマース指導者イスマーイール・ハニーヤ政治局長が殺害された。ハニーヤは前日の30日に開催されたマスウード・ペゼシュキヤーン新大統領の就任式に出席するために在住先のカタールからイランを訪問しており、前日にはハーメネイー最高指導者と会談する様子も公開されていた。報道によると、ハニーヤはイランの首都テヘラン北部にある宿泊先に滞在しているところを攻撃され、ボディーガード1名とともに殺害された模様である。

 暗殺の実行犯について確定的な情報はまだ出ていないが、ハマースは声明でイスラエルを糾弾している。イスラエルは疑惑について立場を明らかにしていないが、国外における暗殺作戦については関与を肯定も否定もしないことが通例であるため、各種報道や専門家の分析はイスラエルによる暗殺であったことを前提にして進められている。

 ハニーヤの暗殺は、昨年10月から続くガザ戦争の終結をさらに遠のかせることになるだろう。停戦交渉が暗礁に乗り上げて久しいが、指導者を暗殺されたハマースはイスラエルとの停戦に合意するどころか、交渉が継続されるかも危ぶまれる事態だ。

政治部門の「顔」だったがガザ地区内を統制しきれず

 イスラエルによるハマース幹部の暗殺は開戦以降に何度も起きている。しかし、前線から遠いところにいる在外政治指導部の指導者が標的にされたことは、これまでの事例と性質を大きく異にする。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
村上拓哉(むらかみたくや) 中東戦略研究所シニアフェロー。2016年桜美林大学大学院国際学研究科博士後期課程満期退学。在オマーン大使館専門調査員、中東調査会研究員、三菱商事シニアリサーチアナリストなどを経て、2022年より現職。専門は湾岸地域の安全保障・国際関係論。
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