保護貿易主義の誤り――実は輸入で強くなったアメリカ製造業
Foresight World Watcher's 4Tips
バイデン米大統領が「阻止」に向けて最終調整中とも伝えられた日鉄のUSスチール買収について、直近では判断を大統領選後まで先送りするとも報じられています。完全に政治問題化している格好ですが、それ自体はハリス氏もトランプ氏も、つまり大統領選を戦う両陣営とも米国の中間層へのアピールを念頭に置いていることを考えれば避けがたいところであったでしょう。
そもそもバイデン政権は「中間層のための外交」を掲げたものの、何が経済的に「中間層のため」なのかは判然としないというのが実態でした。中間層の苦境は内政上の問題(たとえば富の偏在や格差拡大)から来ているのか、あるいはグローバル化に原因を求めるべきなのか。ここへの一つの回答として、バイデン政権は多国間主義への回帰を打ち出しながらも、実態としてはトランプ前政権の導入した保護貿易主義的な関税を維持しました。特に中国からの安価な輸入品が米国製造業を衰退させ、多数の雇用を失ったという認識は両政権に共通するものでした。
しかし、アメリカの雇用維持に保護主義が役立つとの認識は、少なくとも2010年代以降は誤っているとの論考が米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌に掲載されています。曰く、「それは過ぎ去った時期を想定した“間違った貿易戦争”」とのこと。製造業の強靭化は、結局のところ労働力と技能の開発からの果実でしかあり得ないとの分析は、貿易とは領域がやや異なるものの、日鉄・USスチールの問題にも示唆するものが多いと言えそうです。
フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事4本、皆様もよろしければご一緒に。
Asia Has No Hegemon【Susannah Patton, Hervé Lemahieu/Foreign Affairs/9月13日付】
「週末に読みたい海外メディア記事」では前回、米国と世界にとってのアジアというテーマを扱う記事・論考を紹介したが、同じ問題意識を持つ書き手による論考がその後も登場している。なかでも、米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌サイトに掲載された「アジアに覇権はない」(9月13日付)は、刺激的な1本だ。
「今日のアジアは、世界に2つしかない超大国の両方に支配された、他に類を見ない二極構造となっている。アジアは欧州型の列強協調体制でもなく、中東の無秩序状態でもなく、冷戦期の対立する陣営のシステムでもない。アジア諸国は概して、2つの大国の狭間でバランスを取っている。アジアのパワーポリティクスはまた、米国と中国との均衡が保たれていることによって、世界の主要地域のなかで最も安定したものとなっている」
筆者は、米ローウィー研究所の東南アジア・プログラム・ディレクター、スザンナ・パットンとリサーチ・ディレクター、エルヴェ・ルメイユで、彼らは国ごとの“パワー”を評価する基準として「アジア・パワー・インデックス」を開発。これは「経済規模という従来の簡略な尺度を超え、軍事力、国家のレジリエンス、人口動態および経済資源の将来予測、さらに地域的な影響力として経済関係、文化的影響力、防衛ネットワーク、外交の4つの側面を考慮」した指標だといい、論考はこの指標をベースとしている。
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