“アセットライト”なる資産切り売りを続ける西武HDの末期症状

執筆者:杜耕次 2024年10月2日
エリア: アジア
所沢駅東口に「グランエミオ」で西口には「エミテラス」、「駅ビルを2店も新設するのはアナクロ以外の何ものでもない」との指摘も[「エミテラス所沢」のオープニングセレモニーで撮影に応じる後藤会長(手前中央)ら=2024年9月24日、埼玉県所沢市](C)時事
「東京ガーデンテラス紀尾井町」を誰が買うかは、不動産業界の旬の話題の一つだろう。西武ホールディングス(HD)はこの東京・千代田区の赤坂プリンスホテル跡地に建設した巨大複合ビルを2024年度内にも売却する。西武HDが“アセットライト(資産の軽量化)”と称する資産売却戦略の一環だが、なんのことはない、実態は自己資本を穴埋めするための切り売りだ。みずほ銀行から送り込まれ「新たな天皇」として君臨している後藤高志会長の経営責任をどう問うか。

 買い手の本命はシンガポール政府系投資ファンドのGIC、対抗はブラックストーンやKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)といった米系ファンド、大穴は三井不動産やヒューリックなどの日本勢――。この数カ月、不動産業界関係者らの間で、寄ると触ると話のタネになる売却案件がある。「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京・千代田)。売り主はコロナ禍で経営が傾いた西武ホールディングス(HD)である。

 東京・紀尾井町の旧赤坂プリンスホテル新館(略称・赤プリ、後のグランドプリンスホテル赤坂)が惜しまれながら閉館したのは2011年3月31日。西武グループ創業一族の2代目・堤義明(90)が建築家・丹下健三(1913〜2005年)に設計を依頼し、1982年に竣工した地上40階建ての超高層ホテルは、ガラスとアルミのカーテンウオールで構築した外壁が印象的で「昭和バブル期の名建築」の1つと謳われた。

 現在この赤プリの跡地に聳え立つのが「東京ガーデンテラス紀尾井町」だ。ホテル(ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町、客室数250室)・オフィス・商業施設を併設する紀尾井タワー(地上36階建て)と賃貸住宅が入居する紀尾井レジデンス(同21階建て)の2棟で構成。敷地面積3万400平方メートル、総延べ床面積22万7200平方メートルの大規模プロジェクトで、建て替えには1040億円が投じられ、2016年に竣工・開業した。

 今年3月、西武HDがこの「東京ガーデンテラス紀尾井町」の売却を検討していると英ロイター通信がスクープした。「売却額は少なくとも3000億円を超える」との観測が伝わると、ホテルや不動産、さらに国内外の投資ファンドなど関連ビジネスの関係者が一様に色めき立った。

 西武HDは5月に公表した2035年までの長期戦略で「東京ガーデンテラス紀尾井町を2024年度内に流動化(売却)する」と明らかにし、年内にも売却先が内定する見通しになっている。元々立地の良さは折り紙付きの希少物件だが、それだけではない。30〜36階に入居するザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町はプリンスホテルチェーンの中でも別格のハイエンドの顧客をターゲットにしているが、こうした四つ星〜五つ星クラスの高級ホテルは昨今インバウンド(訪日外国人客)ブームの再来で深刻な客室不足に陥っている。つまり、需要は旺盛で開業後のハイレベルの客室稼働率は「保証付き」の市場環境にある。

 一方、5〜28階のオフィスも1坪(3.3平方メートル)当たりの賃貸料相場が3万円を超え、大手町・丸の内に次ぐ屈指の高水準にある。ホテルもオフィスも誰もが口を揃える「超優良物件」なのだ。にもかかわらず、西武HDはなぜ手放すのか。その背景を探っていくと、足かけ20年に及ぶ同社の失政が浮き彫りになってくる。

この記事だけをYahoo!ニュースで読む>>
カテゴリ: 経済・ビジネス
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top