シリアの盟友アサド政権の崩壊には一切沈黙(2024年12月15日~12月21日)

『労働新聞』は12月11日付で初めて尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領による「非常戒厳(令)」について報じて以来、12日付の「傀儡韓国で尹錫悦弾劾を要求する闘争が連日高潮、政治的混乱さらに深化」に続き、16日付において「傀儡韓国で尹錫悦に対する弾劾案可決、大統領権限停止」と題する記事を掲載した。2回目の弾劾訴追案が賛成204票、反対85票で韓国国会を通過したこと、各地で尹錫悦に対する糾弾集会が開かれ、与党「国民の力」からの脱党者が増えて「与党内の分裂が激化」していることが描写された。
また、弾劾訴追案可決によって「尹錫悦傀儡」の大統領権限が停止され、「傀儡の憲法裁判所が弾劾を最終決定する」ことも簡潔に伝えられた。「傀儡国防部長官」「傀儡警察庁長」「傀儡ソウル地方警察庁長」が拘束されたほか、「傀儡陸軍参謀総長」「傀儡国軍防諜司令官」「傀儡特殊戦司令官」「傀儡情報司令官」らの職務停止や「傀儡首都防衛司令官」の逮捕など、わずか700字ほどの短い記事に「傀儡」が19回も連呼された。
しかし、『労働新聞』が韓国における反尹錫悦の動きを連日のように報じてきたことに鑑みれば、戒厳令騒動以降はすっかり落ち着きを見せている。北朝鮮が韓国情勢に介入しようとしていると捉えられれば、尹錫悦、さらには韓国の保守勢力を支援することにもなりかねないことから、現段階では情勢を静かに見極めつつ、自国民への限定的な情報開示を進めていると言える。
一方、シリア情勢については完全な沈黙を保っている。12月8日、シリアのバッシャール・アル=アサド大統領がダマスカスを離れ、父子2代による支配は終焉を迎えたが、そのことについて北朝鮮メディアは一切報じていない。
北朝鮮にとってシリアは代表的な友好国である。今年2月にキューバと外交関係を樹立した韓国にとっては、国連加盟国の中で唯一国交を持っていないのがシリアである。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とアサドとの間で首脳会談を持たれたことはないものの、北朝鮮側は、最後まで北朝鮮への義理を通したアサド政権との関係を重視してきた。
これまで『労働新聞』は、シリアの動向を頻繁に報じてきたほか、両首脳間での電報のやりとりを1面トップに飾ることもたびたびであった。今年、金正恩が各国首脳に新年の祝賀メッセージないし年賀状を送ったことを報じた1月18日付の記事では、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を筆頭に、中国、キューバ、ラオス、ベトナムの首脳の次にアサドの名が紹介されていた。
今月に入ってもシリア情勢についての記事は連日のように掲載されていたが、7日付で、シリアに対する米国の「厚顔無恥な行為」をロシアの国連大使が糾弾したことを伝えた後、『労働新聞』は「シリア」「アサド」について一切触れていない。
2011年10月に殺害されたリビアの最高指導者カダフィと当時の金正日(キム・ジョンイル)政権との間にはやや距離があったため、今回のシリア情勢をめぐる報道ぶりとは比較しづらい。
かなり遡ることにはなるが、1989年12月、ルーマニアのチャウシェスク政権崩壊についてはその2日後には『労働新聞』が短く報じていた。

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