第二次トランプ政権でも止まらない? 中国製造業「ASEANシフト」のかつてない急増

執筆者:高口康太 2025年3月5日
2024年の中国は経済成長における輸出の割合が急上昇した[2025年3月4日、中国・北京の人民大会堂で行われた全国政治協商会議の開幕式に出席した習近平国家主席](C)AFP=時事
中国からの工業製品輸出がアメリカにラストベルトを生んだかつての「チャイナショック」は、一面では多国籍企業の利益にも繋がった。しかし現在の「チャイナショック2.0」は、プレイヤー、製品、貿易構造という3つの点で大きな変化が起きている。米トランプ政権はASEANなどからの迂回輸出抑止に躍起だが、中国側からは「今年も東南アジア進出がホットイシュー」との声が聞こえてくる。ただ、それは中国経済が直面している大きな課題の裏返しでもあるだろう。「世界の工場」はどこへ行くのか。 

 第二次トランプ政権誕生後の米中関係では何が主要テーマとなるのだろうか? さまざまなトピックがあるが、最大のテーマは「貿易不均衡」になるとにらんでいる。

 2月21日、中国の何立峰(ホー・リーフォン)副首相と米国のスコット・ベッセント財務長官が電話会談を行った。この会談では何が焦点となったのか? 中国側は「中国に対する関税引き上げなどの制限措置に強く注目している」と申し入れたことを発表している。一方の米国側は「ドラッグ対策、貿易不均衡、不公平な政策」に懸念を表明した。この3点の順番はそのまま米国の優先順位を示しているとみていい。

「フェンタニル」などのドラッグ蔓延が米国では社会問題となり、大統領選でも主要な争点の一つとなった。有権者へのアピールとして、最優先事項にあげられているのは理解できる。それに続く第2のフォーカスが「貿易不均衡」なのだ。

「チャイナショック2.0」は過去とどう違うか

 2024年、米国の貿易赤字は過去最大となる1兆2117億ドルを記録した。貿易赤字の最大の相手国は中国だ。そして、中国の貿易黒字もまた過去最高、9921億ドルを記録した。中国からあふれでる輸出の嵐は「チャイナショック2.0」の懸念を招いている。

 

 もともとの「チャイナショック」とは1990年代末から21世紀初頭にかけて、中国からの労働集約的な工業製品の輸入が急増し、米国内における雇用を減少させたことを指す。マサチューセッツ工科大学教授のデヴィッド・オーター教授らの研究では、米国で200万人もの失業をもたらしたと推計されている。その直撃を受けたミシガン州やペンシルベニア州はラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれるようになった。

 このチャイナショックは2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟に強く後押しされたが、輸出した国は中国でも、企業は中国企業ばかりではなかった。むしろ、中国に製造拠点を構えた多国籍企業が中心であった。先進国の労働者にとってはダメージをもたらしたという側面もあるが、企業にとっては利益となったとも言える。

 短期間で急激に中国の輸出が増加したチャイナショックの後も、中国の貿易黒字が減ったわけではない。貿易不均衡は一貫して重要なテーマであり続けた。第一次トランプ政権(2017~2021)でも貿易不均衡は重要な外交テーマで、米中両国は互いに関税を引き上げる貿易戦争を繰り広げた。

 その後のバイデン政権ではサプライチェーンの中国依存脱却、半導体製造の米国誘致に代表される産業政策に重点が移ったが、トランプ政権下で導入された関税は維持されるなど、貿易不均衡が軽視されたわけではない。

 こうして、現在の第2次トランプ政権とチャイナショック2.0の時代にいたる。過去の貿易不均衡と比較すると、プレイヤー、製品、そして貿易構造という3つの変化が重要だ。

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執筆者プロフィール
高口康太(たかぐちこうた) 1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト、千葉大学客員教授。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国・天津の南開大学に中国国費留学生として留学中から中国関連ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。中国経済と企業、在日中国人経済を専門に取材、執筆活動を続けている。 著書に『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 』(文春新書、共著)、『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、共著)、『中国S級B級論』(さくら舎、共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、共編、大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)、『習近平の中国』(東京大学出版会、共著)など。
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