
ドナルド・トランプ米政権が、60年以上にわたって途上国の開発・人道・保健支援を担ってきた米国際開発庁(USAID)など海外援助の90日間の活動凍結を決めたことで、世界に激震が走った。「米国に頼るな」というトランプの世界へのメッセ―ジは一貫しているのだが、世界最大の開発・人道援助国である米国の活動縮小でできる空白を中国が埋めるとの観測が広がる。それは本当だろうか。
日本が250億円を支出したカンボジア地雷事業の曲がり角
アジアの援助コミュニティーを驚かせたのが、米国の援助凍結の直後にカンボジアの地雷処理センター(CMAC)が中国からの440万ドル(約6億6000万円)の資金拠出を得たとのニュースだ。トランプ政権の国務省武器除去支援室は1月25日からカンボジアの地雷処理事業への資金と活動を停止、CMACは210人の要員をレイオフしカンボジア国内8州での活動を止めた。CMACは米政府から昨年の200万ドルを受け取っていたという。
中国はその騒動が起きた直後の2月5日にカンボジア政府に440万ドルの提供を伝えている。地元報道では、中国は2016年以降カンボジア政府にこうした支援を続けており、今回の440万ドルは昨年の2倍という。カンボジアはASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも親中国色を強めている。米国が海外支援を縮小すれば、対米不信感を強め中国に頼るのは自然だろう。
ベトナム戦争以来1990年代初頭まで戦火にあったカンボジアには400万から600万の地雷・爆発物が敷設されていると言われ、米国は1993年からその処理事業を支援してきた。経費の3割を負担しているという。トランプ政権の決定を受け、インドシナ半島での駐在歴がある17人の元米大使が連名で、支援継続を求める公開書簡を国務長官のマルコ・ルビオ氏に送った。
だが、下院外交委員会のブライアン・マスト委員長(共和党)は、援助は腐敗した現地組織に横領されていると述べ、「米国民の税金を暖炉で燃やした方がマシだ。海外援助は米国民への裏切りだ」と激烈に批判している。
カンボジアの地雷処理と言えば、日本も調印したカンボジア和平以来、自衛隊OBらが現地入りして技術、機材、人材育成、研究開発などを提供し、昨年7月にはCMACを上川陽子外相(当時)が訪問した。日本政府も1998年以降CMACに167億円以上を提供してきた。CMAC以外も含めれば、カンボジアの地雷処理に250億円を供与している。
現地での騒動に驚いたのだろうか、駐プノンペン・カンボジア大使館代理大使が2月20日になりCMAC長官と会談し、米政府によるカンボジアの地雷処理事業への資金提供は継続されると伝えた。CMACは要員のレイオフも不要となったと喜んでいるが、「まずは米国民を助ける。外国は二の次だ」(J・D・バンス副大統領)と宣言するトランプ政権だけに支援継続の確証はないのが現実だ。
海外援助の凍結・大幅縮小の見通しを受けて中国が取って代わるという観測はあちこちで聞かれる。

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