トランプ大統領の発言とアクション(3月27日~4月3日):「米国を再び豊かに」する相互関税、日本は為替が交渉材料か

「約束し、約束を守る」――2024年11月6日、2024年米大統領選での勝利演説で、共和党のドナルド・トランプ候補が有権者に投げかけた言葉である。その言葉に違わず、トランプ氏は大統領就任後、着々と公約を実行してきた。不法移民の取り締まり強化、米連邦政府の歳出削減、ロシア・ウクライナ戦争の終結を目指した交渉……4月2日は、そこに「相互関税」が加わった。
演説会場となったローズガーデンは、記者や製造業関係者などで埋め尽くされ、星条旗がひしめき、「米国を再び豊かに」と名付けられたイベント名にふさわしい熱気に満ちていた。トランプ氏が登場すると、会場からは歓声が湧き、固唾を呑んで東京で画面を見守っていた筆者との温度差が感じられた。相互関税の会見の開始時間は当初、現地時間午後3時の予定だったところ、午後4時という米株市場の引け後に後ろ倒しされたため、筆者としては不穏な空気を読み取らずにはいられなかった。
意気揚々と壇上に上がったトランプ氏は、「何十年もの間、わが国は敵味方を問わず、近くて遠い国々から略奪されてきた」と批判。外国の指導者によって雇用や工場を奪われ、アメリカン・ドリームは引き裂かれ、納税者は50年以上にわたって騙されてきたが、「もうそんなことは起こらない。私は世界各国に対して相互関税を導入する歴史的な大統領令に署名する」と高らかに宣言した。
「一律10%」+各国・地域毎の関税率
今回発表された相互関税の措置については、2つに分けられる。
1つは、①米貿易赤字の規模、②貿易相手国の関税率、③為替を含めた非関税障壁――などを根拠とした、各国・地域毎の個別の関税率だ。日本や中国、欧州連合(EU)、台湾など、約60カ国が対象で、4月9日から発動となる。
もう一つは、これらの特定の国・地域以外に課す一律10%関税である。主に米国が貿易黒字を抱える国、貿易規模の小さな国・地域が対象となり、4月5日から発動する。
いずれも大統領が「異例かつ特別な脅威」に対応する目的で緊急事態を宣言すれば、関税などの対応を可能とする「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に準拠にする。IEEPAは①状況、②異常かつ特別な脅威とする理由、③権限が行使される対象国とその理由ーーなどを6カ月毎に米議会に報告する義務を大統領に課す。
なお、ホワイトハウスが発表した相互関税の関税表に、カナダとメキシコの他、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、キューバが含まれなかった。ホワイトハウスは、ファクトシートでカナダとメキシコについて、既に不法移民とフェンタニルなど違法薬物の流入を理由に、IEEPAの下で米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠していない製品について25%の関税を発動していると説明。ロシアなどの4カ国への言及はなかったものの、比較的小さな貿易規模であること、ロシア・ウクライナ戦争停戦を始め安全保障上の交渉余地の確保を狙ったものと想定される。
相互関税の関税率、算出方法で疑問浮上
トランプ氏が演説で「時に味方は敵よりひどい」と切り捨てたように、相互関税の税率は同盟国に対しても容赦ない水準に設定された。前回のコラムで紹介した通り、世界貿易機関(WTO)のデータでは、米国の貿易加重平均の関税率は2.2%だったところ、日本はそれ以下の1.9%に過ぎない。しかし、為替を含む非関税障壁も併せて米国がはじき出した関税率は46%となり、結果、その約半分の24%が相互関税に割り当てられた。トランプ氏は「完全な相互主義ではなく、親切な相互主義であるため、関税率を半分にした」というが、日本に課された関税率は貿易加重平均が2.7%のEU(欧州連合)のそれも上回るだけに、疑問を抱かざるを得ない。
日経新聞は、関税率について米貿易赤字÷米輸入額×100で算出されたと分析する。確かに、日本の場合は2024年の貿易赤字が685億ドル、輸入額が1482億ドルだったため、当てはめれば46%。しかし、これで納得できる国・地域は多くないはずだ。
なお、米通商代表部(USTR)は算出法を公開しており、貿易は時間とともに自然に均衡する、との概念に基づき、「相互関税を理解しやすくすべく、二国間貿易赤字をゼロにする関税水準を計算した」という。その上で、貿易赤字が解消されない理由として、米国製品に対する規制障壁、環境審査、コンプライアンスに伴う障害やコスト、為替操作や通貨の過小評価を挙げ、これらが全て米国製品の輸出を妨げ、貿易の均衡を崩す要因と説明し、計算式を以下の通り明らかにした。ただ、米経済・金融TV局CNBCのFed番記者、スティーブ・リースマン氏は「国際貿易の専門家に確認したところ、この算出方法は一般的ではなかった」という。
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