ポスト冷戦期の「平和構築支援」からインド太平洋における「協力関係強化」への展開

執筆者:谷口美代子 2025年4月20日
タグ: 紛争
エリア: アジア

今年3月には海上自衛隊の護衛艦「のしろ」がフィリピン海軍作戦基地を訪問した[サルバドール・ブアンガン司令官と握手を交わす堀哲暢艦長(前列右)=2025年3月26日、比ザンバレス州スービック](C)AFP=時事

日本がミンダナオ平和構築への支援を本格化させた契機は、2001年の米国同時多発テロ事件だった。米国の「対テロ戦争」における第二戦線となることが危惧されたミンダナオの安定化に寄与した日本は、その信頼を土台にフィリピンとの協力を安全保障分野にも拡げてきた。同国の沿岸警備隊や国軍の能力強化支援は、インド太平洋地域での国際平和の推進にも繋がる。米トランプ政権による国際秩序再編の兆しの中で、「継ぎ目のない支援」を持続できるかが問われる。(連載最終回)

 日本が20年以上にわたり「継ぎ目なく」支援をしてきたミンダナオ和平は、今年10月の選挙実施による新自治政府設立によって重要な局面を迎える1。フェルディナンド・マルコス大統領は、政権発足当初(2022年)、和平政策について明言を避けていたため、その方針に関して様々な憶測を呼んでいたものの、前政権下での和平政策を踏襲し、その「成果」を和平の「成功事例」として国際社会に誇示する

 しかし、そのプロセスは必ずしも順風満帆とはいかない様相を呈している。2014年に締結した和平合意のうち、治安の回復と安定に向けて重要な要素である反政府武装勢力(MILF)の武装解除が停滞している2。また、2024年9月9日、最高裁判所が新自治地域(BARMM)を構成していた主要6州3のうちスールー州を除外する判決を下した(後述)。民族自決(self-determination)に基づく、「バンサモロ」(マレー語で「モロ国家」)という新たな政治共同体の創設は歴史的な転換点を迎えている。

 こうした状況を踏まえ、本稿では、ミンダナオ和平プロセスの現状を確認したうえで、フィリピンを取り巻く安全保障環境と脅威認識の変化、それにともなうミンダナオ平和構築支援を起点としたインド太平洋における日本フィリピン、米国4の外交・安全保障協力への展開の今日的意義について考えてみたい。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
谷口美代子(たにぐちみよこ) 宮崎公立大学教授、早稲田大学アジア太平洋研究センター 特別センター員。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了。博士(国際貢献)。(独)国際協力機構(JICA)平和構築シニアアドバイザーを経て現職。米国国防総省ダニエル・イノウエ・アジア太平洋安全保障センター元研修員。専門分野は、紛争・平和研究、国家建設、東南アジア地域研究(特にフィリピン政治、ミンダナオ)、安全保障など。現在、JICA緒方貞子平和開発研究所にて国際共同研究にも従事。主な著書に『平和構築を支援する―ミンダナオ紛争と和平への道』(名古屋大学出版会、2020年)などがある。第32回アジア・太平洋賞特別賞、第24回 国際開発研究 大来賞など受賞。
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