
今年3月には海上自衛隊の護衛艦「のしろ」がフィリピン海軍作戦基地を訪問した[サルバドール・ブアンガン司令官と握手を交わす堀哲暢艦長(前列右)=2025年3月26日、比ザンバレス州スービック](C)AFP=時事
日本が20年以上にわたり「継ぎ目なく」支援をしてきたミンダナオ和平は、今年10月の選挙実施による新自治政府設立によって重要な局面を迎える1。フェルディナンド・マルコス大統領は、政権発足当初(2022年)、和平政策について明言を避けていたため、その方針に関して様々な憶測を呼んでいたものの、前政権下での和平政策を踏襲し、その「成果」を和平の「成功事例」として国際社会に誇示する。
しかし、そのプロセスは必ずしも順風満帆とはいかない様相を呈している。2014年に締結した和平合意のうち、治安の回復と安定に向けて重要な要素である反政府武装勢力(MILF)の武装解除が停滞している2。また、2024年9月9日、最高裁判所が新自治地域(BARMM)を構成していた主要6州3のうちスールー州を除外する判決を下した(後述)。民族自決(self-determination)に基づく、「バンサモロ」(マレー語で「モロ国家」)という新たな政治共同体の創設は歴史的な転換点を迎えている。
こうした状況を踏まえ、本稿では、ミンダナオ和平プロセスの現状を確認したうえで、フィリピンを取り巻く安全保障環境と脅威認識の変化、それにともなうミンダナオ平和構築支援を起点としたインド太平洋における日本フィリピン、米国4の外交・安全保障協力への展開の今日的意義について考えてみたい。

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